相対から絶対へ、想定から確信へ ツールを駆使し、座標と思考を切り替える
社名:東急建設株式会社
URL:https://www.tokyu-cnst.co.jp/
本社:東京都渋谷区渋谷1-16-14 渋谷地下鉄ビル
創業:1946(昭和21)年
代表取締役社長:寺田光宏
事業内容:総合建設業(土木建築工事の請負/土木建築工事に関する調査、企画、地質調査、測量、設計ほか)
3D活用は渋谷再開発という“重層構造の現場”から始まった
渋谷駅周辺の再開発は、2010年頃から東急グループを中心に、JR東日本、東京メトロ、渋谷区などが連携して進めてきた長期プロジェクトだ。それは交通機関や建物の単純なアップデートではない。鉄道を中心に都市機能を再構築する「TOD型開発(Transit Oriented Development:公共交通指向型開発)」の日本での実施例はまだ多くないが、渋谷は鉄道や道路、河川、周辺ビル、駅前広場を一体的に再編するという点で、国内でもきわめて大規模で先進的な取り組みといえる。
再開発エリアでは、地下5階の東急東横線・東京メトロ副都心線、地上2階のJR山手線・埼京線、地上3階の東京メトロ銀座線が上下に重層し、その周囲を渋谷ヒカリエや渋谷スクランブルスクエアなどの大型ビル群が連続して取り囲む。さらに駅前広場や地下広場の再整備、渋谷川沿い空間の再生、国道246号と歩行者デッキを含む動線再編が段階的に進むことで、渋谷全体が駅を核とした立体的な都市空間へと再構築されつつある。


池田氏のD.T.I.推進事務所が入居するビルから宮益坂下交差点と銀座線・渋谷駅の
新駅舎越しに渋谷スクランブルスクエアを望む写真(上)と、同じ視点・方向・画角で
再現したSketchUpモデルの画像(下)
今回話を聞いたのは、東急建設都市開発支店鉄道土木部の池田仲裕氏。池田氏が所長を務めるD.T.I.推進事務所の「D.T.I.」はDigital Technology Integrationの略で、3DモデルやCAD、VR、点群データなど多様なデジタル技術をまとめて扱い、プロジェクトの計画から施工、協議までを支えるデジタルテクノロジーのハブの役割を担う。
1997年の入社以来、首都圏の鉄道営業線で大規模改良工事を手がけてきた土木施工技術者の池田仲裕氏が、SketchUpを使い始めた経緯や、東京メトロ銀座線・渋谷駅移設での3D活用については、すでに本サイトに事例記事「東京メトロ銀座線渋谷駅の移設工事の司令塔」でリポートしているほか、いろいろなメディアで知ることができる。
本稿ではその続報として、池田氏が新たなツールや技術を得、シミュレーションや合意形成といった用途を超えて、3Dデータを実務の中核へ推し進めていった“第2フェーズ”を紹介しよう。

都市開発支店鉄道土木部D.T.I.推進事務所所長の池田仲裕氏
SketchUp+座標スイッチ×点群データで可能になったこと
池田氏が出合ったツールの一つが「座標スイッチ」だ。座標スイッチは、SketchUpで測量座標を扱えるようにするプラグインで、測量で取得した測点データ(CSV)を読み込み、3Dモデルに正確な位置情報を付与できる。任意の平面直角座標を原点として設定できるため、現場の座標体系に合わせた3Dモデルの構築が可能になる。基本機能は「測量座標対応SketchUpで実践する普段使いのi-Construction」で詳しく紹介しているのでそちらも参照してほしい。
以前は測点データをいったんCADで開き、軌道中心の線形図や基準となる点や線を作図してからSketchUpに受け渡しプロセスが必要だった。それが座標スイッチの導入によって、測点データをSketchUpで直接読み込み、軌道や桁支承(橋を支える部品)の中心座標を自動でプロットできるようになった。「この(CADを経由する)作業がいらないんです!」と池田氏のトーンが上がるのは、旧来の作業がどれほど負担だったか、どれだけ煩わしく思っていたかの証左だろう。


座標スイッチで生成した軌道中心と桁支承(上図)。それらをガイドに、レール、枕木、ガードレール、
鋼桁といった橋梁上部構造を組み上げた3Dモデル(下図)。
こうすることで精度を担保しながら設計整合性を検証できるようになった
既設の構造物は現況測量で得た測量座標(絶対座標)値をもとに作図される一方、主桁や横桁などの計画構造物は、設計図が数学座標(相対座標)で作図されているため、3Dモデルも数学座標系でモデリングするのが一般的だ。両者は座標系が異なり、XYの位置関係が逆で、測量はメートルで設計図はミリメートルと単位も一致しない。従来は、この差を手作業で調整して合わせていた。座標スイッチを使えば、測量座標、数学座標系をどちらでも簡単に設定でき、既設構造物と計画構造物が同じ座標系で扱えるようになり、既設と計画の取合い部の干渉の検証などが、容易かつ正確に行えるようになった。
かつては相対的な位置関係だけで合わせていたので「多分ほぼ合っていると思います」と言うしかなかった。だが、軌道や桁支承の座標に合わせて構造物を取り込め、引出し線で正確な座標値を表現できるようになったことで、「この3Dモデルは正確だ」と胸を張って言えるようになった。抱えていた“統合モデルで精度をいかにして担保するか”という課題を一気に解消するブレークスルーだった。

軌道と橋梁に加えて、駅舎や設備、仮設用部材、重機なども統合した状態で施工の検討を行う。
任意の構造物や基準点をピックすると表示される座標値で、3Dモデルの配置位置が適正かどうかを確認できる
もう一つが、レーザースキャナやドローン計測で取得される点群データの活用だ。点群は、対象物の表面を無数の点として3次元的に記録したデータで、現況を高密度かつ高精度に把握できる。建設業のプロフェッショナル向けのプランであるSketchUp Studioに含まれる「Scan Essentials」を導入することで、取得した地形や構造物、周辺環境の点群データを3D空間に再現できる。
点群データは、取得方法によって測量座標を備えている場合もあれば、測量機器固有の座標系で記録されている場合もある。点群を現地の測量座標系と位置合わせすることで、測量座標を持つ計画構造物の3Dモデルと統合した際にも、両者の位置関係が正確に一致する。これによって現況と計画を高い精度で重ね合わせた検討が可能になる。「ずっとこういう機能が欲しいと思っていたときに、SketchUpに点群データを統合できるようになって、座標スイッチが発売されたのですぐに飛びついたんです」と導入時の経緯を振り返る。


東京メトロ豊洲駅ホーム増設工事の計画を行った際、重機や部材の配置位置、
施工手順などをシミュレーションした3Dモデル。上図は現況の点群と3Dモデルを重ねた状態、
下図は3Dモデルだけの状態
都市部の現場はスペースに余裕がない。重機を置けるスペースは限られ、クレーンの旋回範囲、作業半径がわずかに変わるだけで周囲に干渉する。重機の据え方や旋回方向、ブームの長さやアームの向きまで、すべてがミリ単位で決まってくる。だからこそ、点群データと3Dモデルを重ねて重機の動きを立体的に可視化し、離隔不足や支障箇所を洗い出して解決しておきたい。「これまで『多分いけるでしょう』『ぎりぎりで駄目かも?』といっていたのが、『ぎりぎりだけどいけます』『絶対に駄目だ』になる。座標値を持たせられることで、3Dモデルの精度が担保されて想定が確信に変わるんです」。
あの現場やこの現場でも……、現況と計画を統合した施工検討や、実際の施工でのエピソードが池田氏から次々と語られる。
例えば、本稿の冒頭に載せた渋谷駅前の風景は、スクランブルスクエア東棟に設置された大型デジタルサイネージの視認性を確かめるために作ったものだ。駅前の東口広場に仮設構台(工事用に設置する一時的な作業用のプラットフォーム)を設置するため、広告面が駅前広場からどう見えるかを事前に検証する必要があった。周囲の構造物がすべて正確な座標位置に配置されているため、モニタ上で視点を変えながらサイネージの見え方を検証でき、「仮設構台が広告面をさえぎることはない」と自信をもって示すことができたという。
土木技術者が磨くべきは“モデリングスキルではなくリテラシー”
池田氏はモデリングを外注せず、ほとんどを自分でこなす。理由は「プロのCGモデラ―より自分のほうがうまいから」ではもちろんない。単なる作業の内製化ではなく、施工検討の質を担保するためだ。施工検討に必要なのは、ただわかりやすい美しい作品ではなく、緻密に作り込まれた施工の可否を判断できる3Dモデル。現場の勘所やペインポイントを熟知しているからこそ、要点を絞った詳細なモデリングを短時間で仕上げることができる。
SketchUpで3Dモデルを作ることに特別なスキルはいらない。基本操作さえマスターすれば、1か月ほどで必要な形は難なく起こせるようになるだろう。池田氏が何より重視するのは、「現場を理解し、施工をイメージできる力」だ。重機をどこに据えるか、作業員の動線はどうか、危険が潜むのはどこか。判断は現場を知る技術者にしかできない。そして現場を知る技術者が3Dモデルの活用能力を身につければ、その価値は格段に跳ね上がる。

レーザースキャナやドローンで取得した現況データの精度がもっと上がれば3Dモデリングはより省力できる
(図は既存の点群データと3Dモデルを組み合わせた例)。
池田氏が今注目しているのはガウシアン・スプラッティング(3D Gaussian Splatting)技術だ。
点群とは異なり、空間に配置したガウス分布の密度と色を使ってシーンを表現できるため、
フォトリアルな見た目を高速に描画できるという
鍵は“フロントローディング”にある。フロントローディングとは、製造業や建設業などで使われる考え方で、計画段階の早い時期に検討や判断を前倒しする手法のこと。問題点を初期段階で洗い出し、後工程での手戻りや損失を最小限に抑えるアプローチを指す。
池田氏が語るエピソードの多くは、施工段階で起こり得る問題を前倒しで顕在化させ、手戻りをなくすために行った取組みだ。万が一、施工段階で不具合が発覚して、「現場が止まると一晩で数百万円が飛ぶ。重機を再手配し、作業員や警備員を何日間も待機させ、仮設もやり直し。挙句、費用の負担でもめ、工期も遅れる。3Dモデルで事前につぶしておけば、その全部がいらなくなる」と池田氏は言う。
3Dモデルは見栄えがよい説明資料ではなく、施工検討の深度化を支えるリアルな検証装置として機能している。節約できた費用や時間を正確に把握することは難しいが、フロントローディングの真髄は、後で発生するはずの無駄なコストやリスクを最小化する点にある。

池田氏の3Dモデリングを支えるメインマシン。
デスクトップパソコンにはNVIDIA RTX 4500 Ada GenerationとIntel Xeon w7-2495Xを搭載し、
ノートパソコンにはNVIDIA GeForce RTX 4070 LaptopとIntel Core i9-14900HXを搭載。
両機ともに64GBのRAMを実装している
3Dモデルを作る目的は、現場で起こり得る問題に先手を打って損失を防ぐこと。土木技術者が磨くべきはモデリングのスキルではなく、使いこなすリテラシー――。これが第2フェーズ真っ只中にいる池田氏の実感だ。
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