万国津梁のくに発! 3D測量と3Dモデル統合によるBIM/CIMデータ活用戦略

オカベメンテ
社名:株式会社オカベメンテ
URL:https://okabe-m.jp/
本社:沖縄県那覇市天久2-9-1
創業:2015(平成27)年
代表取締役社長:岡部成行

事業内容:BIM/CIMモデリング、VR・ARによる施工管理・安全教育、UAVレーザー測量、UAV空撮3D測量、3Dレーザースキャン、ドローン構造物点検、構造物調査診断点検


建設土木の総合3Dコンサル、オカベメンテとは何者か

オカベメンテは代表取締役の岡部成行氏がゼネコンを退職して2015年に起業した個人事業がルーツだ。所長として赴任した沖縄県の現場でドローン測量による3D技術にひきつけられた。この体験がその後、3Dによる橋梁点検や維持管理を行う事業を立ち上げるきっかけになった。
「現場所長時代、グリーンアースの理事をしていた鈴木浩一さんに『今、ドローンで測量ができるんですよ』と聞き、実際に現場の測量結果を3D化して見せてもらったんです。ドローンの登場で、『危険な場所に人間が行かなくても橋梁点検を安全に精度よくできるようになるんじゃないか』と漠然と思ってはいたのですが、それがうまくマッチングしました」と岡部氏は創業のいきさつを振り返る。
グリーンアースは沖縄県下の建設業を対象にCPDSセミナー開催や建設現場の3Dモデル作成支援などを行うNPO法人で、鈴木氏はSketchUpによる3Dモデリングを担当していた。グリーンアースはその後に独立した岡部氏と共同で「ドローン空撮写真による3D地形測量」の技術開発を開始。2016年には法人化したオカベメンテに鈴木氏が合流して、3D測量と3Dモデリングを手掛ける現在の業容の基礎が出来上がった。
「ドローン測量、レーザー測量も含め、3Dモデリング、VRと、総合的な3Dのコンサルタントをめざしている」と岡部氏と鈴木氏が語るように、橋梁点検業務をコアに据えながらも、橋梁や道路、造成などの幅広い建設土木の測量・設計・施工に対して、3Dモデリング/電子納品支援を行う極めてユニークな存在なのだ。

左から同社CIM-3D事業部の宮城賢大氏、代表取締役の岡部成行氏、
取締役専務・CIM-3D事業部本部長の鈴木浩一氏。
岡部氏と鈴木氏はNPO法人グリーンアースのそれぞれ理事、代表理事も務める


法人化後は、革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金などを活用し、3Dレーザースキャナなどの測量機器やドローンに積極的に投資してきた。高額の最新機器を思い切って導入しても数年後には廉価版が登場する製品サイクルの早さを嘆きつつも、「最新機種を導入して業務に投入しないと乗り遅れてしまう」、そう思って投資していると岡部氏は語る。最新の機器を試す過程で未知の問題や課題が明らかになる。「これじゃできない」「こうすればできる」、この気づきこそが貴重なのだという。
土木設計や施工の経験を問わず、入社した社員は全員、市販のチュートリアル本や鈴木氏が講習用に作成した資料などを見てSketchUpの基本操作を覚え、その後は各現場のモデリングに実践投入するのが同社の流儀だ。「時間をかけて特別な教育をしなくても描けるようになるのがSketchUpの入りやすいところだと思っている」と鈴木氏が言えば、社内きっての使い手で3Dモデリングを統括する宮城賢大氏が言うところの「教えられた人が教える側になった連鎖」がうまく回り、SketchUpは社内標準ツールとしてフル活用されている。

ニコン・トリンブル製地上型レーザースキャナTrimble X7による3Dスキャン計測風景


配筋から造成、VR、データベース利用まで!3Dモデルレビュー

建設土木現場の3D化で何が可能になるのか。どんな成果が得られるのか。同社が手掛けた3Dモデリングとその効用の一部を鈴木氏のコメントとともに紹介しよう。

図1

配筋3Dモデルの例。図1(上)はモデリング時に配筋干渉が判明した状態。
図2(下)は大型の円形タンクの配筋例

図2


図1は橋脚の配筋3Dモデルである。鉄筋の干渉をチェックする目的で配筋図に基づいてモデリングしたものだ。SketchUpの基本機能のひとつフォローミーツールで鉄筋を作れるとあって、簡単ながら利用価値は高い。「実際に配筋するのと同じ工程でモデリングしていくので干渉がすぐにわかる。干渉を自動チェックするプログラムもありますが、モデリング後にアウト判定箇所をつぶすより、都度干渉がわかれば鉄筋を回転させて回避するなどの対策を講じられます。照査でも配筋図を示してチェック済みと申告するより、配筋プロセスを動画で見てもらえばしっかりチェックしたことをアピールできる」。
図2は大型の円形タンクの例だ。「橋梁の配筋CADはありますが、タンクのような形状の構造物に対応できるプログラムはそう多くないはず。その点、SketchUpはなんにでも対応できる強みがある」。

図3

3Dによる造成計画の例(図3)。任意の造成計画断面図を即座に切り出して、
現況地盤面、計画地盤面を検討できるほか、切盛土量も容易に算出可能だ


図3は造成前の現況モデルを計測して、造成計画を行った事例。レーザースキャンで取得した点群データから現況モデルを作成し、造成の勾配法面を検討。切盛土量をSketchUpで自動算出し、造成後の開発面積を割り出す一連の作業を短時間で行う。

図4

安全教育用に作成したVRコンテンツ(図4)。手に持ったコントローラーで危険が予測される箇所や
工具を指し示すとイベント(事故やアクシデント)が発生する。
SketchUpの動的コンポーネントを利用して作成されている


図4はBIM/CIM用に作成した3Dモデルに仮設の足場などを加えて建設現場を再現、VRに加工して作業員向けの安全教育用コンテンツを作成した例。吊り上げたワイヤーが外れて鉄板が落下した、高所作業中に工具を誤って落としてしまった…。安全教育向けに作られた教材や動画は多くあるが、実際の現場で想定される事故・リスクを臨場感たっぷりに体験できるとあって、発注者の評価は高い。岡部氏の長年の現場経験も随所に反映されている。

図5

プラグイン「リンクさん」を利用し、3Dモデルにリンクを設定した例(図5)。
文書、写真、動画、音声などさまざまなファイルにリンク付けできる


図5は3Dモデルにリンクを設定した例(プラグイン「リンクさん」を利用)。リンクを埋め込んだオブジェクトをクリックしてWebサイトにアクセスしたり、関連する画像や動画、ドキュメントを素早く開いたりできる。3Dモデルをデータベースのように使うアイデアは、設計照査、発注者協議、施工者への説明資料、構造物のメンテナンスなどにも応用できそうだ。
国土交通省は2020年4月、「2023年までに小規模工事を除くすべての公共事業にBIM/CIMを原則適用」すると発表した。以前に掲げた2025年までの原則適用から実質2年の前倒しだ。「まだまだ先の話」「そのときがきたら考える」。そう受け流していたBIM/CIM化がいよいよ間近に迫る。
BIM/CIMを前に、「どこから始めたらよいかわからないと困惑する会社は非常に多いと思います。その点でSketchUpは最も入門しやすいツールだと勧めるのですが、『SketchUpでは簡易モデリングしかできない』とか『SketchUpで作ったモデルや図はマンガでしょう』なんて誤解されている。それに対して『私たちはSketchUpでこのように精度よくモデリングできている』と言っているんです」と鈴木氏は話す。2021年9月には測量座標に対応したプラグイン「座標スイッチ」もリリースされ、建設土木業でのSketchUp利用はさらに便利になり、作図時間が約半分になったケースもあるという。
同社での3Dモデリングの大半はSketchUpで行う。BIM/CIMモデルの電子納品支援ではSketchUpで構造物や地形モデルを作り、3D CADデータに変換して納品要領に沿ったBIM/CIMモデルに仕上げている。モデリングをSketchUpで行うのは、モデリングの自由度が高く、3Dモデルを動画やVRなどに容易に転用でき、導入費用を気にせず社員に1本ずつ配備できるからだ。

BIM/CIMデータの施工・維持管理活用を見据えたチャレンジ

同社が今、注力しているのは、施工ステップでの4D表現と、3Dデータと点群データを統合した構造物の維持管理だ。順を追って説明していこう。
4Dとは3Dに時間情報を加えたもので、つまり時間の経過に伴って施工が進んでいくさまを3Dで表現し、施工ステップの可視化や管理を行おうという試みだ(国土交通省「設計-施工間の情報連携を目的とした4次元モデルの考え方(案)」。
発注者や施工者との情報共有はもちろん、土木工事ではさまざまな業種の事業者が関わり、元請けや下請けの作業員などが働く。そうした工程間や人々との情報共有に4Dはとても有効だ。また、施工の進捗によって地域住民の生活にもさまざまな影響が及ぶ。地元説明会で4D動画を見てもらうことで、施工ステップを誰でも容易に理解できる。

図6

4Dによる施工ステップ管理の例(図6)


建設土木工事では施工が数年にわたるものもある。長い施工プロセスを数分の動画にぎゅっと凝縮しながら、刻々と変化する施工モデルと工程、経過日数を紐づけ、施工ステップとしてわかりやすく表現したい。
「一口に4D表現といっても工程表を並べただけのものもあって、『それは4D表現なのだろうか』と疑問に思うものも。私たちもよりわかりやすい表現方法を模索していて、(図6の例では)画面上部に工程フローチャートを表示させ、画面下部の工程別に色分けした側面図と合わせて進捗を可視化しています」(岡部氏)

図7-1

図7-2

橋梁の3Dモデルの表面にドローン撮影画像を貼り付け、ひび割れ箇所を明示した例(図7)


もうひとつが、同社の本業であり真骨頂でもある橋梁の点検業務だ。図7は、ドローン撮影したコンクリート面を解析して得たひび割れ図を、SketchUpで作った橋梁モデルに位置を合わせて貼り付けた損傷3Dモデル。これをもとに補修や定期的な点検対象とするなど、維持管理に役立てる。
貼り付ける先の橋梁モデルは図面から起こすのが理想だが、竣工から年月がたっており、図面が現存しない場合も少なくない。そこで活躍するのが3Dレーザースキャナやドローンで取得した点群データや測量データだ。たとえば点群データの場合、SketchUpに読み込み、エッジを3Dトレースして現況の橋梁モデルを作成する。
こうした点群データから3Dモデルに変換する作業はプラグイン「Scan Essentials」(SketchUp Studioの付属機能)を用いるが、実際に3Dレーザースキャナで取得した点群はまるで“黒い塊”で、点群数、データ容量とも極めて膨大な厄介な代物。精度を落とさず扱いやすいデータに加工するのは同社独自のノウハウや技術だ(同社ではこれを「3Dモデルのデータ軽量化」と呼び、営業品目に掲げている)。

図8-1

図8-2

点群データを読み込み、3Dトレースして橋梁の現況モデルを作成しているところ。
前述の造成モデルの作成でもデータ軽量化が行われている。「3次元点群データの軽量化」は
『建設テック未来戦略』(日経BP社)の「ニーズが高く有望な技術50」のひとつに取り上げられた


ドローンでの撮影も「始めた当初は、計測誤差を前に『ああでもない、こうでもない』と、徹夜で試行錯誤していましたね。通常は数cm程度の誤差が出るものですが、ポイントを絞った計測では誤差をmm単位にまで抑えている」と鈴木氏。
ドローン測量では通常、上面だけから撮影するところ、Z軸の精度を確保するために斜め方向からも撮影する。適切な斜め角度は何度かといったノウハウも豊富な測量経験や探求心で培ったものだ。
画像解析したひび割れ図を3Dモデルとともに管理するメリットは、ひび割れ箇所の特定だけではない。ひび割れの位置や連続性などから橋梁全体の損傷も容易に把握できると考えられる。大成建設の「コンクリートのひび割れ画像解析技術」を、離島架橋の橋梁点検業務で有効活用することを目的に、琉球大学SIP地域実装支援チームと連携してドローンによる高品質な画像撮影と詳細な画像解析評価を行うなど、新技術開発研究の一翼も担っている。

図9

ドローン空撮を行っているところ


図10

ニコン・トリンブルの高精度屋外ARシステムTrimble SiteVisionでリアルの橋梁に3Dモデルを重ね、
ひび割れ箇所を容易に特定できるようにする構想もある


すご腕の建設土木業3Dコンサルタントが沖縄県にいる――。
一連のSketchUp Pro導入事例の取材先で何度か聞いた。その会社、オカベメンテは市内からアクセスしやすい那覇空港をハブに、北海道から本州、四国、九州、東南アジア諸国に至る多くの建設現場で3Dコンサルティングを行い、大手ゼネコンや大学との共同事業・研究も行う出色の存在だった。
沖縄県になる以前の琉球王国はかつて世界の架け橋といわれた。万国津梁のくにのオンリーワン企業から今後も目を離せない。



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