個人測量事務所が取り組む3D測量とSketchUpによるICT施工支援
屋号:菅原測量
創業:2013(平成25)年
代表:菅原裕幸
事業内容:一般測量/工事測量/UAV写真測量/UAVレーザー測量/地上型レーザー測量/3D設計データ作成

目次
「今までのままでいい」か、意欲をもって「次の段階に行く」か
SketchUpで作成した3D設計データを使い、ICT建設機械による自動制御(マシンコントロール〈MC:Machine Control))/操作補助(マシンガイダンス〈MG:Machine Guidance〉)で施工している建設会社が福岡県にあると聞いた。3D設計データは、建設会社とは別の測量事務所が作っているという。ドローン測量と3D設計データ作成を担当している菅原測量を訪ね、個人測量事務所の3Dへの対応、SketchUp活用に至るプロセスなどを聞いた。
事務所兼自宅で話を聞いた菅原測量代表の菅原裕幸(すがはらひろゆき)氏
熊本県の北西部、福岡県大牟田市と接する荒尾市。市街地から少し離れた新興住宅地に菅原測量の事務所兼住居がある。代表の菅原裕幸氏は、測量専門学校を卒業後、測量会社や建設会社勤務を経て、2013(平成25)年に独立。測量技術者としてのキャリアは40年に及ぶ。
工事測量が主だった会社員時代と比べ、独立後は災害復旧関連の測量、特に河川の堤防再整備に伴う測量が多いという。九州北部では平成24年7月九州北部豪雨以来、毎年のように豪雨による大きな災害が続く。こうした自然災害の増加が背景にあるのは想像に難くない。加えて最近では圃(ほ)場整備に関連する業務が増えている。
菅原測量には所員はおらず、トータルステーションを使った測量業務では助手を夫人に頼んでいるそうだが、独立初期と比べると測量業務はかなり減った。「河川工事の測量の場合、以前は中心線の測点杭を打ち横断測量を行っていたが、今はドローンで範囲を一気に撮影して、点群データから断面を切り出します。ドローンや3DなどICT関係に対応しなかったら、当時の3分の1程度しか仕事はなかったでしょうね」。ICT化は建設会社や工事段階で著しい一方、建設コンサルタントや計画段階での3D利用はほとんどなく、今までどおりの方法による平面測量や横断測量の依頼が多い印象だ。
トータルステーションを使った従来の横断測量風景(左)と現在主に行っているICT測量による画像(右)。
ドローンで取得した点群に中心線データを入力し、横断を読み取る
菅原氏のような個人で営む測量事務所も、(最近、測量会社から独立して開業したような人は別として)「『今までの流れのままでいい』とするか、意欲をもって『次の段階に行く』か(二極化している)。(測量業務に携わっている時間が長くなると)新しい技術に対応したり、覚えたりするのが億劫になってきます。しかし、以前に比べればハードウェアやソフトウェアも充実してきていますから」、ハードルは低いのではないかと考えている。
ラジコン操縦の経験が活きたドローン測量への挑戦
圃場とは、田や畑、果樹園、牧草地などの農地をいう。圃場整備とは、「①小区画・不整形な農地を大区画・整形な農地に整備し、②計画的に農道や用排水路を配置することで農地の区画整理を行うもの」である*。圃場整備によって、大型機械の使用などによる農業生産性の向上や生産コストの削減、作業の省力化が図られるほか、用水や排水整備による治水効果も期待できるとされている。菅原測量が行っている圃場整備での3D活用に触れる前に、菅原氏が長年にわたって取り組み、成果を上げてきたドローン測量について話を聞いておこう。
作業部屋を兼ねる書斎の壁には2機のラジコンヘリコプターがディスプレイされている。“趣味が高じて測量技術者の道に進んだ”などということは「全然ない」と菅原氏は否定するが、少年期から親しみ、続けてきた趣味が、現在のドローン測量に連なっているのはとても興味深い。
ラジコンヘリコプターのほか、ラジコン飛行機も飾られている
「(デジタルカメラの普及以前から)ラジコン飛行機やヘリコプターで航空写真を撮りたい思いはあった」が、実現することはなく、当時の熱意が再び高まったのはドローンが日本で紹介されてから(ただし、人間による操作要素を減らす方向で自動制御が進化中のドローンは、ラジコン飛行機の趣味心を満足してはくれないのだそうだ)。
2013年頃、「部品を組み合わせてドローンを製作した」知人の話を聞いた。当時、航空写真を撮れるような性能や機材を搭載した産業用ドローンの完成品は販売されていなかった。そこで「モーターやプロペラなどの部品一点一点をインターネットで調達して自分で組み立てました。カメラは当初、(アクションカメラの)GoProを利用していて、あれは広角レンズなので視野角が歪むんですよ」。より精細で歪みの少ない航空写真を撮るために搭載カメラは一眼レフカメラに変更し、重量化する機材への対応と、飛行高度や滞空時間を稼ぐため、自作ドローンは数代を重ねた。ドローンを地上から操作するコントローラも工夫を重ねて改良した。
当時は建設会社に頼まれて着工前や竣工後の航空写真撮影などを行っていたが、建設会社自身がドローンを導入するようになると、依頼はほとんどなくなった。メーカー製ドローンに切り替えてからは、数台の機種を経て、現在はDJI製Matrice 300 RTKを主力機として写真測量やレーザー測量で使用している。
右は初代測量ドローン自作機(一眼レフカメラ搭載)。
左は現在の主力機として活躍するDJI製Matrice 300 RTK。
測量時は本体のほか、予備バッテリーも携帯する
「(工事施工前に行う)起工測量に必要な地上画素寸法は2cm/画素以内、出来高管理で1cm/画素以内とされているんですが**、以前使っていた2,000万画素カメラ搭載ドローンだと1cm/画素を満たす飛行高度は35mが限界でした。現在の主力機は4,500万画素ですから、80mくらいまで高度を上げられるので撮影写真の枚数を減らせて、処理も速くなる。滞空時間も主力機は1回の充電で30分程度、最近行った12ha(120,000m2)の現場なら二十数分で終わるのが、バッテリー容量が少ない前機種だと4、5回に分けて撮影しないといけない計算になりますね」
SketchUpで圃場整備の3D設計に初めて取り組む
菅原氏がSketchUpを利用し始めたのは、測量で取り引きがあった野中重機建設(福岡県八女市)からの依頼がきっかけだ。現場は約6ha(60,000m2)の圃場の整備だった。元の農地は荒れたぶどう畑や変形した畑田だったため急な勾配もあり、一区画の形状や大きさも異なるなど、平坦な農地として整備するには難度が高そうだった。圃場内への土の持ち込みや持ち出しは行わず、ICT建設機械で施工するため、設計データはLandXML形式で納品してほしいなどの条件もあった。
圃場整備の発注図は2,500分の1くらいの地図から起こした2次元計画図で、
河川工事などの発注図とはだいぶ勝手が違った
「何とかしましょう」と引き受けたものの、「(当初は)2次元CADで線に高さ情報を持たせて、SketchUpで読み込んで部分をモデリングして、それを再度2次元CADに書き戻して…、ということを繰り返して書いていたけど、途中でこれではとても無理だと思って」行き詰まった末、ドローン測量で交流があったオカベメンテ***にアドバイスを求めると、数日後、「こうすれば書ける」というコメントとともに、圃場整備後のラフな3Dモデルが出来上がってきた。
この3Dモデルが見本兼指南役となって、菅原氏のSketchUpのキャリアがスタートした
「下のレイヤに置いた平面図をガイドにしてモデリングしていくとやりやすい」とアドバイスをもらったが、発注図と高さが合わないため、ドローンで敷地形状や高さを測量し、それをもとに作業を進めていった。サンプルの3Dモデルを手本にして作業を進め、時折、オカベメンテに助言を乞いながら3か月にわたって格闘した後、SketchUpによる3D設計データを初めて完成させたのだった。
菅原氏が初めて完成させた圃場の3D設計モデル
「もともとがレベル(水平)でなく、ねじれ勾配に道路の法面が合流するような接続部分は(当時SketchUp初心者の)手に余りました。これまでなら適当に擦り付けて納めるのでしょうけれど」、ICT建設機械での掘削が条件の3D設計データではそうした現場合わせはできない。切土・盛土計画も、締固めなどの転圧で土量は変化するため、計画時に想定された土量変化率から始め、最適な切土量と盛土量を決定するまでには5、6回設計し直したという。しかし、シミュレーションを繰り返して最適な設計データを作るようなやり方は「SketchUpでないと多分無理だろう。ほかのツールは思いつかないです。みんなはどうやって書いているのかな」と菅原氏は言う。
測量データの加工や3Dモデリングはデュアルモニタ環境で行っている。
左は施工後のドローンによる写真測量データ、右は圃場整備に使った3D設計データを表示させた状態
作成した3D設計データは、地理空間総合オフィスソフトウェアのTrimble Business Center Proに読み込んだ後、MC/MG用のTINデータに加工し、LandXML形式データに変換。併せて、ICT建設機械で表示する平面図データをSketchUpで出力して納品というプロセスを経る。果たして最初の圃場整備の3D設計データはMC/MG用として十分な品質を確保していたようで、現在は第3弾の圃場整備に取り組んでいるそうだ。
このほか、海岸の護岸工事で、L型のコンクリート擁壁もSketchUpでモデリングし、床掘面の3D設計データを作成した例を見せてもらう。「L型擁壁の下側部分にある段の分まで掘削しておかないと、型枠が入らず施工できない。施工に必要なのは床掘面だけだけど、構造物もモデリングしておかないと最適な床掘面のデータは作れないので」。このような構造物のモデリングや掘削がわずかな操作や面や線の延長だけでできるのがSketchUpの強みだという。
海岸の護岸工事用に作成した3Dモデル。必要なのはICT建設機械で施工する床掘面だけだが、
構造物をモデリングしたうえでないと施工に最適なデータは作れない
i-Construction 2.0で測量事務所や建設会社が直面すること
国土交通省が2024年4月に公開したi-Construction 2.0では、生産年齢人口の減少や災害の激甚化・頻発化、インフラの老朽化への対応増を背景に、インフラの整備・管理を持続可能なものとするため、より少ない人数で生産性の高い建設現場の実現が必要とし、2040年度までに「自動化・省人化(建設現場のオートメーション化)」を実現し、建設現場の省人化を少なくとも3割、生産性を1.5倍向上することを目指すとしている。
こちらの記事<野中重機建設へのリンクを張ってください>では、菅原測量が作成した3D設計データをMC/MGに利用する建設会社での事例を紹介している。
*「ほ場整備ってなにをしてるの?」
**「令和2年度空中写真測量を用いた出来形管理要領(土工編)」では、精度が確保できる場合には任意とされた
***「万国津梁のくに発! 3D測量と3Dモデル統合によるBIM/CIMデータ活用戦略」(株式会社オカベメンテナンス)
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<株式会社アルファコックス>
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