SketchUp活用事例2:東京メトロ銀座線渋谷駅の移設工事の司令塔

はじめに

東急と言えば渋谷を思い浮かべます。
今や日本の顔と言える象徴的都市の長期計画開発で注目を集めている”東京メトロ銀座線渋谷駅の移設工事”について、ご担当である池田さんをご紹介いただき、そのエピソードと現状の取り組みについてお聞きしました。


Q1
銀座線渋谷駅の工事について概要を聞かせてください。

A1
工事着手は2009年。
2019年度下期に、駅の移設まで完成する予定です。
その後も渋谷全体の工事進捗に合わせて、工事を実施していきます。そして、完成予定は2027年。(時期は明確に決まってはおらず、もっと長い可能性もあります。)
現在、東急百貨店東横店の4階(乗り場は3階)に銀座線の渋谷駅があるのですが、大規模再開発により、周辺のビル事業や基盤整備事業など様々なプロジェクトが同時に動いており、その一貫として、この渋谷駅を明治通り方向に約130m移設をするという工事が実施されることになりました。
駅を移設するにあたり、一旦鉄骨で軌道の仮受けをした上で、もともとの構造物を解体し、続いて新しい構造物を構築し、縦断勾配を変え、平面線形を変えるなどして駅を計画の位置に移設する準備を進めています。
2019年末には、周りのビルやスクランブルスクウェアも完成し、ある程度骨格が見えてくる予定です。
Q2
この工事とSketchUpの関係を教えてください。

A2
この工事の説明や打ち合わせを、いろいろな部署に2次元図面を用いて行っていたのですが、どれだけ詳細に描いても、当初はなかなか正確に伝わらず協議が進まない状況でした。
この工事では、電車の運休を伴う大掛かりな線路切替を、いく度か実施する必要があります。
この切替の内難易度が高い施工例として、元々走っていた軌道の直下に線路を切替えるために仮受した桁を上方に持ち上げて(扛上)電車の走る空間を確保するという工法があるのですが、この工法を2次元図面で説明するのが非常に困難でした。
そこで、これを含めた切替全般を3Dモデルを用いて検討を進めてみようと思い立ちましました。ついに思い切って2017年の2月から、3Dモデルツールを活用した検討を開始しました。
AutoCADの2次元図面からSketchUp Proで3Dモデルを作り、動きと時間はNavisworksで付けました。
これは、SKetchUp Proのシーン切り替え(アニメーション)だけでは表現がぎこちなくなるので、重機の動きと時間を含めた4D施工シミュレーションをNavisworksで実施するようにしたのです。
当然ながら、制作工程としてはモデルデータも実際の動きも先ずSketchUp Proで作っていきます。
現在は、2019年度下期の駅の移設のために準備をしている最中です。
実作業としては、2018年5月に縦断・平面線形切替が終わり、次の駅移設切替に向けて本設の橋を架けたり、将来の駅舎も示し線路越しの桁架設等のシミュレーションを進めています。


Q3
現場の作業と3Dシミュレーションの兼業は大変だったのではないですか?

A3
わたしは、この工事に2009年から従事しているのですが、元々はこの現場担当として着任し、現場で施工の管理をしていました。
当初は現場管理をしながら中長期でいろいろな計画を立案したり、できるかどうかの等の施工検討を進めていたのですが、検討する案件が莫大にあるため、現場を兼務していたら計画業務や検討業務が思うように進められないという判断が社内や社外からあり、現在は施工管理を離れ、切替を中心とした計画や検討業務に特化しています。
現場に出る時は、計画シミュレーションした事項の現場での検証や、クライアントとの現地立ち合い等が必要な際に限られています。
Q4
3Dモデリング作業への取り組みは、習得面や外部からの軋轢が大変ではなかったですか?

A4
確かに3Dモデルを作るのは大変なのですが、先にも述べました通り詳細に描いた2Dの図面で懸案・検討事項を現場やクライアントに説明してもうまく伝わりきらない現状がありました。
土木、建築関係者は2D(平面断面)図面でも理解してくれるのですが、電気や信号担当者、営業や運転部に見せても内容が正確に伝わらない。土木の2D図面では理解しづらいのです。
さらに先方の部署内で上司に伝えても、上申する際に伝搬しきれないという事態も起こってしまい、協議が予定通り進まないと言う状況にありました。
そこで、3Dモデルを用いた協議資料を作成したところ、具体的にイメージできることにより瞬時に理解を得られ早期に解決へつながりました。
結論としてはトータルで考えるとこの手法が最も早く合理的であるという判断に到達したのです。
今はクライアントであるメトロさんの会議にも呼ばれ、3Dベースで概況を説明する機会が増えてきました。
さらに設計に臨む以前の段階の状況把握や検討材料にも使いたいとの要望で、3Dモデルの制作を依頼されるようにもなってきています。
その影響力は大きく、発注者サイドの設計部署と一緒に3Dを基に考えるような状況も出てきています。
ここに至るまでの過程の中で、外注やCADオペレータに3D化を依頼するという意見もあったのですが、結局、現場の状況がわからない人が描いても、どこが重要なポイントなのかがわからない事が多く、時間も限られた中でそこを説明しながら依存するよりは自分でやった方が早い上、わかっている人間が3Dシミュレーションを実行することにより、それがいいか悪いかの判断を考えながらやれることのメリットがやはり大きかったです。
しかしながら、今後の建設現場でのICTの活用や普及を考えると、皆が自分の担当している業務を分担してそれぞれが描き、小さな3Dモデルをまとめてひとつの大きな現場にするというのが理想だと思います。
Q5
具体的な活用事例を聞かせてください。

A5
一番ホットな例として、先日、運転や駅等を含めた大きな会議がありました。
新しいホームに最終的にホーム可動柵(ホームドア)を設置するにあたり、彼らから2D図面を見てもイメージが湧きづらく、良し悪しの判断ができないとの意見が出ました。
そこで、明治通りへ駅が移設された時の再現を3Dで示しました。その際、仮図を元に駅設備や上屋柱が立つという3Dシミュレーションを作成し、更に電車の中からのシーンも作成しました。
その結果、乗客が並ぶ場所付近にある柱とドアの位置関係など、2D図面ではイメージしきれなかった事を絶大なインパクトで示すことができ、誰の目で見ても現在計画されている柱等の位置では狭隘になるという共通の結論に至り、最適な位置に変更されました。
その他の事例として、この工事は、営業線に非常に近接した施工となるため、運転士が危険と判断した場合、危険回避として電車を止める等といった運行災害のリスクもはらんでいます。
そこで、運転席から見えることになるであろう施工状況を、事前に3Dモデルで提示することで、危険ではないという認識を持ってもらえると同時に、必要と思われる関係者のチェックが並列に行えるようになりました。
このような事例の積み重ねの結果、クライアントサイドであるメトロさんから、正式な図書としてSketchUpデータを認知して頂けるようになり、協議などの資料素材として3Dの動画やカット画の作成を依頼されるようになっています。また、先方に提出する施工計画書にもそのまま3Dイメージが反映されるようになってきています。
                                  資機材配置計画 運転手目線

                                  資機材配置計画 運転席目線



Q6
池田さんのような人を作っていくために取り組むべきプロセスはどのようなものがいいとお考えですか?

A6
最初のきっかけは2013年の東横線の代官山駅地下切替の計画を担当した時でした。
地上を走っていた電車が一晩で地下に入るとか、高架に切り替わるなどの事案が、当時3Dモデルを導入していなかったため、初めてこの様な工事に携わる現場職員やクライアントにはなかなか伝えることができず、大変苦労しました。
そこで、思い切って2017年2月に決意をして、2018年5月の銀座線の線路切替に向け取り組んでみたのが一歩です。
まず一基の桁を描いてみました。それを皮切りにあれもこれもとやっているうちに、数年先の3Dモデルまで作成する今の状態に至りました。
皆さんは、3Dモデリングは難しくて手間がかかるのでは?と思うようですが、実際は2Dの原図(Auto CAD)を読み込んでから3Dを起こしているので、そんなに手間がかかっているわけではないのです。
今は皆さんが思っているより、非常に身近で操作も容易なものだということをもっと知るべきだと私は考えています。
私も当初、とっつきにくいんだろうと思っていたのですが、実際に取り組んでみたら、様々な場面で絶大な効果があり、素晴らしい結果に結びつきました。
今では、クライアントも正式な文書として認識してくれるまでになりました。まずは取り組んでみることだと思います。
                                          切替着手前

                                          切替完了後



Q7
お話しを聞くといいことずくめのようですが、この手法にデメリットは何かありますか?

A7
デメリットとしては、これに慣れ親しんでくると、2つ懸念事項が浮かんできました。

  1. 3Dイメージが分かりやすすぎてそこで満足してしまい、本来現場で図るべき対策検討の深度化を怠ってしまうことが起きる可能性があります。
  2. ベテラン技術者からの苦言ですが、「若手技術員の2次元図面の読解力が育たなくなる危険性をはらんでいる。」

ということです。
逆を言うと、このようなデメリットがある事を十分考慮して活用すべきということでしょう。
建設現場では、3Dモデルを作ることが目的ではなく、3Dモデルが完成してからがスタートなのです。そして、若手技術員の育成も重要な課題となっております。
Q8
最後に総括としてまとめていただけますか?

A8
わたしの場合、線路切替など煩雑で専門知識を要する工事に従事してきた中で紆余曲折ありましたが、自然とSketchUpによる3Dシミュレーションを取り入れるようになり、それに絶大な効果があることが分かり様々な場面で活用するようになりました。
その結果、クライアントサイドのメトロさんからの理解もあり、本来現場に出てなんぼという建設業界で、現在のこういう特別な立場にさせて頂きました。
現状は、オリンピックの時期(2年後)まで書き込み、様々な検討を進めています。このことにより、各段階の懸案項目の抽出を工事プロセスに先駆けてできるようになりました。
現場に関しては、各段階で3Dモデルの図があるのでシミュレーションのスクリーンショットやシーンアニメーションを活用して計画・検討を行い、実施工の場に反映しています。
中でも、一番活用しているのがやはりクライアントとのやり取りですが、何よりも3Dモデルにより、未来を皆が同じレベルでイメージできるようになったことで、周囲の理解度もあがり、結論が早く出て検討や懸案が早期に処理され、どんどん次のステップに進めるようになりました。
個人的な感想として、2次元での計画段階で大方の予想は付きますが、 SketchUp Proで作成した3Dモデルは、予想・予測したものを確信に変える最高のツールで、周囲を説得し合意を得るための最高の武器になると思っています。


あとがきとして

渋谷は昔からなじみの駅ですが、近年どこかで工事をしており、あわただしいと思っていました。
東急建設の方に渋谷の工事はいつ終わるのですかと聞いてみたのですが、答えは「工事はまだしばらく続く事になりますが、渋谷は永遠に進化し続けます。」でした。
池田さんのフロントローディング業務は、さらに未来を見続けて走っていくのでしょうね。

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