スケボー競技場設計の建設コンサルが追求するスケーターに支持されるコースの条件とは

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NiX JAPAN社名:NiX JAPAN 株式会社
URL:https://nix-japan.co.jp/
本社:富山県富山市奥田新町1番23号 /東京本社:東京都千代田区東神田二丁目5番12号
創業:1979(昭和 54)年
代表取締役:市森友明


事業内容:インフラ技術サービス事業(道路、橋梁、河川、砂防施設、上下水道施設、 新エネルギー導入等の計画、設計、都市・地域計画、調査・測量、情報システム開発 補償コンサルタント、ストックマネジメント、防災・減災への取組、低炭素社会づくり) /DX サービス事業/エネルギー事業(IPP)/海外事業

建設コンサルタント、スケートパークを設計する

2021年7月に開幕した東京2020 オリンピック。新型コロナウイルス禍による延期、無観 客開催などの不運や災難に見舞われた大会であったが、テレビやインターネットを通じてでも、アスリートの躍動に魅せられ、感動した人も多いだろう。
話題になったのは競技の一つに、五輪競技として初めて採用されたスケートボードがある。10代前半の少年少女も含め、世界中のスケーター(競技者)たちが見せるスピード感ある滑走、果敢に挑むトリック(技)の数々、ライバルの成功さえ称える清々しさ。加えて、「ゴン攻め」や「ビッタビタ」など独特のフレーズを交えて競技のルールや見どころをわかりやすく説明してくれた解説者の存在も記憶に新しい。

NiX Urban Skate Park(ニックスアーバンスケートパーク)は 8月26日に竣工、無料開放されている。



動画内で滑走するのは東京五輪・スケートボード(ストリート女子部門)の銅メダリスト中山楓奈選手。実写に織り交ぜて俯瞰するのはスケートパーク(スケートボード競技場)のCGだ。この動画は、富山市湊入船町の親水広場に中山選手監修で建設予定(当時)のスケート パークのプロモーション用に制作されたもの。
このスケートパーク「NiX Urban Skate Park」の設計を手掛けたのが、今回話を聞いたNiX JAPAN(ニックスジャパン)株式会社である。インフラ技術サービスが主要業務の建設コンサルタントが、スケートパークの設計を手掛けるに至った経緯と、重要な役目を担ったSketchUpのエピソードを紹介しよう。

設計案の 3D モデルを前にスケーターらと議論する

話を聞いた西田宏氏と大西太和氏が所属するのは都市計画部都市環境グループ。ランドスケープの設計を担当し、グループ員数は10人と至って小所帯だ。グループマネージャーの西田氏の下、公園や広場を担当するチームと、主に運動施設を担当するチームに分かれ、大西氏は後者の係長としてチームを引っ張る。


左から、都市計画部都市環境グループグループマネージャーの西田宏氏、同グループ係長の 大西太和氏。1979 年に富山県富山市で創業した同社は、2015 年に東京本社を開設し、2023 年に新日本コンサルタントから現社名に変更した。社名の「NiX」は「New infrastructure X」の略



野球場やサッカー場の設計が主だったスポーツ施設担当チームがスケートパークを本格的に手掛けるようになったのはここ十年ほど。2014年、富山市に誕生した総面積 5,400m^2 の大型複合系スポーツ施設NIXSスポーツアカデミー(後にNiXストリートスポーツパークと改称)で、同社と米California Skateparks社(以下、CS社)が共同で設計を担当した屋外スケートパークが評判となって、スケートパーク整備に関心がある地方自治体から引き合いが来るようになった。
新潟県の村上市スケートパーク(2019 年オープン)、東京都渋谷区の宮下公園スケート場(2020 年オープン)など、話題のスケートパークの設計、工事管理で着実に実績を重ねていく。東京五輪のスケートボード競技の会場となった有明アーバンスポーツパークを担当したのも両社だ。
スケートパーク設計の黎明期から携わってきた西田氏によれば、「当初は何を手がかりにしていいのかもわからず、手探りでのスタートでした。SketchUpも、協業先のCS社が基本デザインした3DモデルがSketchUpでモデリングされていたため、閲覧目的で導入した」のだという。ほどなく、運動施設の計画段階からかかわりたい思いで入社してきた大西氏が、前職の経験を生かしてSketchUpを業務に取り入れ始めた。孤軍奮闘、休日に部品をモデリングしては、業務の要所要所でSketchUpを利用していたという大西氏。
補助的な用途にとどまっていたSketchUp が、業務に欠かせないツールになった出来事と経験があった。木更津市江川総合運動場の拡張整備事業で新設する野球場とサッカー場を担当していた2019 年。「図面を作るので精一杯だった」という大西氏は、思い切って弊社(アルファコ ックス)の3Dモデル作成サービスを利用し、既設の陸上競技場を含む運動場全体の3Dモデルを製作した。依頼した本人でさえ、「出来栄えには本当に感動しました。私たちが設計し、熟知していたはずの運動場が3Dで立ち上がって初めて、『こんなふうになるんだ!』と」。フィールドはもちろん、スコアボードや照明塔、防球ネットなどの構造物を含めた野 球場全体の景観、内野席や外野席からの眺望までもが新鮮だった。発注者に行ったレビューでも3Dモデルのインパクトと評価は抜群だった。
プレゼンテーションやシミュレーション用途で3Dの有効性が明らかになったのが江川総合運動場とすれば、計画や基本設計という上流工程での活用の道を開いたのが、次に紹介する相模原市の小山公園ニュースポーツ広場スケートボードエリアの改修工事での経験や試みだ。
陸上競技や球技など、たいていのスポーツの競技場は寸法や面積が決まっている。しかし、スケートパークにはそのような規格が存在しない。コースを選手の意思で滑走し、スピードやトリックの完成度、オリジナリティを競うスケートボードならではといえる。
いかようにも設計できる自由さは、設計者にとっては悩ましくもある。同社はそこで、この改修工事プロポーザルの企画提案書に「公園利用者によるワークショップを開催する」と明記し、利用者の声を設計に生かすことにした。実際に、小山公園で幼少期からトレーニングを積み東京五輪にも出場した白井空良選手、同じく相模原市出身のトップスケーター藤澤虹々可選手らプロのスケーターや、地元の愛好家が参加するワークショップを3回にわたって開いた。コースやセクション(構造物)のレイアウト、サイズに至るまで、複数案を示しながら意見を聞いて議論を重ね、設計案を洗練させていった。



ワークショップ最大の目玉は、3Dによるコースの提案と、参加者から上がった意見をその場でモデルに反映させるリアルタイムモデリングの試みだ。当時の様子を大西氏は、「めちゃめちゃ反応がよかった。図面と模型だけでは理解に限界があったのに、実寸法で3Dモデルを見せると、『このバンク(坂)は急すぎるんじゃないか』とか、逆に『アールの勾配が緩すぎる』等々、意見がどんどん出てきた」と振り返る。感覚的な意見を構造物に具体的に反映させるのは難しいのではと察するが、大西氏自身がスケーターであることに加え、「『A公園のステア(階段)はいいね』とか逆に『Bスケートパークのレールは高すぎる』と具体的な施設名を挙げて指摘してくれた」のだという。大西氏は後日、話題になったスケートパークに足を運び、実地調査して設計案に反映させていった。

小山公園ニュースポーツ広場スケートボードエリアの完成イメージ


ワークショップでのリアルタイムモデリングの成功を経て、現在は、敷地図を作成した後は、3D先行で設計を進めているという。設計案が決定した後は、3Dモデルから断面などを切り出し、施工に必要な図面を作っていくという具合だ。
「この事業はSketchUpありきで進んでいる」と大西氏が語るように、発注者や利用者に完成イメージを提示するだけでなく、観客席からのコースの見え方をシミュレートしたり、スケーターたちの活発な意見や要望を引き出したりしてくれる3DモデルとSketchUpは現在の仕事の進め方には欠かせない存在なのだろう。

VRで疑似体験!? より支持されるスケートパークを追求する

SketchUp使いの社員が数人加わった現在の運動施設チームでは、3Dモデルを分担して製作する環境が整ってきた。おかげで、以前は素材のモデリングにまで手が回らず、あきらめたり、品質を妥協したりしていたTwinmotionによるレンダリングも気軽に実行できるようになった。SketchUpで製作したモデルをTwinmotionに受け渡して作成したCGパースを企画提案書に載せたり、動画を内製したりと、3Dモデルの活用範囲はぐっと広がった。

Twinmotionで作成したCGパースの例


目下、関心があるのはVR(仮想現実)による設計シミュレーションだ。本記事の冒頭で紹介したNiX Urban Skate Parkでは(時系列では小山公園でのワークショップの後になる)、監修した中山選手とのミーティングでSketchUpによる3Dモデルを見せ、彼女の意見を得てその場で修正する方法を取り入れている。
「『ステアの幅が狭い』という意見には『ハンドレール(手すり)を少し左側に移動させて広げましょう』とか、カメラを中山選手のアイレベルに合わせて『ハンドレールはもう少し低いほうがいいかな』など」と、競技経験に基づいた微妙な注文にも応えることができた。さらにVRゴーグルを装着し、バーチャルのコースやセクションを確認してもらったらどうだろう――。

競技者目線からのコースの画像


東京オリンピック以来、スケートパーク建設が激増しているそうだが、懸念されるのは施設の質の低下だ。建設したはいいが利用者が増えず、寂れる施設もあると聞く。
同社が、NiX Urban Skate Parkの設計・施工、そして維持運営管理まで一貫して担当しているのは、多くの住民に利用され、しかも質の高いスケートパーク建設を志向しているからだ。「建設した施設によってどんな人流が起きるのか。平日・休日の利用者数は、午前・午後、夜間など時間帯ごとの利用者分布はどうか。利用者へのアンケートを実施して意見を募っている。統計をとり、集計した結果を分析して次のスケートパーク建設、他の自治体への提案につなげたい」という同社のスタンスは、業界のトップランナーにふさわしい。
スケーターファーストで設計されたスケートパークから、“半端ない”トリックを楽々決める新世代スケーターが誕生する日は近い。

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