「その場でプランニング」で顧客の気持ちをつかむ 展示会ブース装飾で展開する独創的なテレカン



日本創発グループ
社名:株式会社日本創発グループ
URL:https://www.jcpg.co.jp/
本社:東京都台東区上野3-24-6 上野フロンティアタワー14階
創業:2015(平成27)年
代表取締役社長:藤田一郎
事業内容:商業印刷、美術印刷、ラベル・シール印刷、特殊印刷、出版印刷などの印刷関連サービス、3DCG制作やアプリケーション、コンテンツ制作を行う東京リスマチックなどの親会社


話術とリアルタイムモデリングで関心を引き込む魅惑のプレゼン

宇宙空間に浮かぶ地球。そこからズームアップしていって、北半球から日本列島、東京ベイエリア、さらに東京ビッグサイト(東京国際展示場)上空へ。もしかすると、有名アーチストのライブコンサートか!と期待するも、ビューはさらに展示棟の屋根を突き抜け、フロアマップを俯瞰し、行き着いたのはなんと小間割り図! そこに「お客様の小間は大通りの角地、たとえるなら銀座の和光、札幌のニッカ、戎橋のグリコ…」と、男声ナレーションがオーバーラップしていく――。

東京ビッグサイトや幕張メッセなどのイベントホールで毎週のように開催される展示会や見本市。マップズーム効果を使った冒頭のドラマチックな動画は、展示会ブースの装飾を担当する担当者が、出展を希望する顧客企業に対して行ったプレゼンテーションの一幕だ。顧客の関心を引きつつ、顧客が購入した小間のロケーション、来場者の動線シミュレーションの説明を兼ねた極めて合理的な内容なのである。

SketchUpで作成した3DモデルをTwinmotionでレンダリング、出力した動画


今回取材したのは、株式会社ジー・ワンの草彅健氏、株式会社ササオジーエスの野口浩二氏(取材当時)。草彅氏の肩書はプランナー、野口氏はチーフプランナー。両氏とも展示会ブースの企画・設計、施工管理、演出まで総合的に請け負う展示会装飾のプロフェッショナルである(※記事中の所属先・肩書は取材当時〔2022年11月〕のものです。野口浩二氏は現在、東京リスマチック株式会社に所属しています)。
装飾会社を募るコンペティションで草彅氏が提示するプレゼン資料はときに100枚を超えるが、「ブースデザインの細部を詰める前に受注するわけで、だから私は『このプランが正解だとは思っていません。お客様との打ち合わせで初めて完成します』と言っているんです。だって、自社のサービスや商品を十分知らない社外の人間に“全部お任せ”なんてできないでしょう? 私たちが提案できるのは『この角度のほうがよく見える』とか『展示物は何点置ける』とか、新幹線の通路を引き合いにブース内の通路幅を提案したりといったこと。『プロの提案を黙って聞け』だなんておこがましい。お客様と一緒につくり上げてなんぼです」と言う。
そう謙遜するものの、草彅氏が顧客と行うテレカンファレンス(オンラインでの遠隔会議)の内容とトークがすごいのだ。顧客側の営業担当者がメンバーに加わることが多いテレカンでは「(普段の営業活動では商品を)どう紹介していますか」「(店頭展示で)お客さんが思わず足を止めるキーワードは何ですか」と直球の質問を繰り出し、日常の営業活動で実感している本音や商品の本質をつかみ出す。「(展示会では)それを大書して指させばいいんですよ! (それができたら)何もしゃべらなくていいのですよ」と、ブースのコンセプトを引き出し、そこからブース全体のプラン、パネルやポップのデザインやレイアウト、さらにはノベルティやパンフレットなど配布物を提案していく。
出色なのが対話と並行して、顧客と画面共有したSketchUpでブースをリアルタイムにモデリングし、プランを煮詰めていくことだ。「ここに『最先端ソリューションコンテンツ』が来て、ここには『eSIM』を置く、と――」。ヘッドセット越しに話しながら、ブース内に「最先端ソリューションコンテンツ」「eSIM」と大書された立体文字を配置していく。別のシーンでは、直方体をモデリングすると間髪入れずカウンターに配列複写する。「よくわかるようになりました!」、先方から小気味よい答えが返ってきた。

テレカンで行ったリアルタイムモデリングのワンシーン


ブース内に立体文字を置くのは実物をモデリングする手間を省くほか(実物のモデリングはテレカン終了後,時間に余裕があるときにすればよい)、「メモ代わりであり、次回テレカンのToDo」なのだそう。「私とのテレカンではメモを誰もとらなくていいように、話に集中していただきたくて。立体文字も直方体もダミーで、それ以上作り込まない。占有面積だけを見てほしいんです。『カウンターにデモンストレーション用の24インチ液晶モニタがいくつ置けるのか。本当は12個並べたいんだけど、いける?』、この場面でお客様が最も知りたいのはそこだからです」。

We craft your imagination. 顧客の要望を確かなカタチに

草彅氏、野口氏とも同業とあって一見競合するようだが、実は株式会社日本創発グループというグループ企業に属する会社員同士。グループの前身は東京リスマチック株式会社といい、印刷物のオフセット製版を祖業に、特にオンデマンド印刷で規模を拡大する一方、2015年には株式移転で日本創発グループを設立。M&A戦略を進め、現在は54社もの子会社を傘下に持ち、関連会社を含めたグループ社員数は3,000名以上に及ぶホールディングカンパニーである。
「We craft your imagination」をうたう同グループ。関連会社一覧には印刷・製版・製本業はもちろん、サイン・ディスプレイの企画やデザイン、合成樹脂製ショップバッグ・包装パッケージの企画・製造、POP広告などの販売促進コンサルティング・プロデュースを専門とする会社などが並ぶ。ユニークなところでは、カプセルトイ商品(ガチャガチャ)、お守り、超像可動フィギュアをそれぞれ扱う会社もグループの一員だ。
草彅氏が所属するジー・ワンは、インストアVMD(店内の視覚的販売戦略)、キャンペーンビジュアル、グッズ作成、パッケージデザイン、ウェブメディアなどを手掛けるデザイン会社。野口氏が在籍するササオジーエス(取材当時)は、文化施設・サインディスプレイ・展示会・内装の制作・施工を行う会社と、成り立ちも業務内容も異なる。ジー・ワンがグループのクリエイティブインフラを担い、ササオジーエスは施工設計インフラを担う存在といえる。それが展示会への出展を希望する顧客の求めに応じて、ジー・ワンが施工管理へと領域を延ばしていったのに対し、ササオジーエスは企画・設計へと業務を広げ、現在では両社とも、展示会の企画・設計・デザイン・施工管理をカバーするに至った経緯がある。

黒づくめの服装がユニフォームの草彅健氏。手配したイベントコンパニオンとは展示会初日朝に会場で初めて落ち合うことが多い。
多数のコンパニオンやプロデューサーがひしめく会場で、「黒づくめの男がいるから」はよい目印になるほか、
ステージでの見切れ対策にもなるのだとか


実直なビジネスマンといったたたずまいの野口浩二氏。
鉄道車両機器を扱う顧客の案件では、製品を採用する関西私鉄を自費取材したり、
とある顧客企業のマスコットロボットを動画に登場させて喜ばせたり。
こだわりとホスピタリティは野口氏の持ち味のひとつ


「この量をこなすのは無理だ…」。起死回生の一手はSketchUp

ミュージシャンやアニメキャラクターなどとコラボレーションした内装のカラオケ室が話題になり始めた2013年頃のこと。カラオケチェーンの発注で東京・六本木に企画した女性歌手プロデュースのカラオケコラボルームがヒット。これを受けて福岡、仙台、大阪などの主要都市でも!と顧客の意気が上がる。そのコラボルームの設計担当が草彅氏だった。
「コラボルームを当時、どう設計していたかというと、10分の1の縮尺で展開図を描き、組み立ててジオラマを作っていました。プリントアウトしてハサミで切ってセロハンテープでくっつけて、というペーパークラフトの要領です」。顧客へのプレゼンや、コラボ先のチェックでは厳しい注文や修正も入る。それらはジオラマに直接朱書きされ、次回打ち合わせまでの宿題となる。

SketchUpとPowerPoint、SketchUpとIllustratorのように、2画面で並行して作業を進めるスタイルは、
効率化、スピードアップを意識してのこと。
ゲーミングマウスやゲーミングキーボードを愛用するのも即答性の高さ、スピードアップ追求ゆえ


男性ボーカルグループとのコラボ、ファッション雑誌とのタイアップ、そして全国展開へと企画が盛り上がるなか、何店舗もの依頼が同時に押し寄せる事態に草彅氏はすっかり参ってしまっていた。この量をこなすのはとても無理だ。
「どうしたらいいんだろう…」。残業続きのオフィスで(前職が住宅メーカー勤務だった)気が置けない営業担当者に打ち明けると「SketchUpはどうだろう」と勧められた。3Dソフトウェアの導入を考えなかったわけではない。だが、「今日インストールして明日作れなければ恐ろしいことになる」ぎりぎりの状況で、じっくり取り組む時間はない。直感的な操作性でマスターしやすいSketchUpとはいえ、業務を回しながら使いこなせるようになるには並々ならぬ苦労があったはず。「当初は壁しか作れませんでしたから、家具や調度品の多くは3D Warehouseで調達しました。だってやれることしかできないのですから」。
結果的にこの選択は奏功する。ジオラマを作る手作業がなくなり、時短効果がまず現れた。打ち合わせが早く済み、異なるアングルや高さからの確認、シミュレーションが容易な効用にも気づいた。さらに新型コロナウイルス感染症の流行で打ち合わせのほとんどがテレカンに移ったことも後押しした。
「(テレカンの最中に)壁材や床を修正したり、ソファをもう1列増やせるかを試したり。即座に答えが出るので次に進める。(宿題を)持ち帰らないでもよくなった」。草彅氏が確立した手法「その場でプランニング」、テレカンでさくさくモデリングするためポリゴン数を極限まで減らすモデリング運用「ローポリゴン主義」は洗練を重ね、ライブ感抜群のプレゼンやテレカンに大いに寄与することになった。

草彅氏が初めて購入した「SketchUp Pro8J」(左)と当時販売されていたiPad用ビューア「3D-Vega」のパッケージ


一方、美術館のキャプション(作品タイトルや作品解説)を得意にしていたササオジーエスが展示会やイベントの設計に業務を拡大するなか、担当に指名された野口氏。2021年5月に「グループにすごい人がいる」と人づてに草彅氏を紹介され、その手ほどきでSketchUpの腕をめきめき上げていった。レンダリングソフトTwinmotionを活用して、ブース設計の初期からフォトリアルな表現を取り入れる手法は、SketchUpとのダイレクトリンクが可能なTwinmotionの特性を生かしたもので、初期プランがちゃぶ台返しに遭うリスクをうまく回避している。

ブース案を見た顧客から、「これを作るのに相当時間がかかっただろう」と感心されることもしばしばだが、野口氏は「光源設定が簡単でレンダリングも速いので、実際にはそんなにかかっていないんです」と打ち明ける。「Twinmotionはリアルタイムで動画を書き出せるうえ、頻繁なバージョンアップでの機能充実ぶりがすごい。オブジェクトに動きをつけたり、ゲーム感覚で作れる」のがとても気に入っているという。
師と仰ぐ草彅氏のテレカン動画を見返してプレゼンのコツ、話術を学ぶ最中だというが、師匠のエッセンスをしっかり受け継ぎながら、また別のユニークな手法を確立しつつあるとお見受けした。


SketchUpでブースをモデリングし(上)、Twinmotionでレンダリングを実行した(下)


Twinmotionでレンダリングした画像(上)と、実際に会場に設営されたブースの写真(下)。リアルと比べても遜色ない仕上がりだ


「3Dの民主化」でみんなが3Dに触れ、恩恵を享受できる未来へ

テレビやインターネットなどのメディア、映画、アニメーション、ゲームなど、特にエンターテインメント分野で3D表現が一般化し、接する機会が格段に増えている現在、仕事でも3Dはもっと活用されるべきだ。草彅氏はそれを「3Dの民主化」と呼ぶ。
今回の取材内容でいえば、設計段階のブースの3Dモデルを顧客の担当者が自由に触り、シミュレーションできたらどうか。自社の営業担当者が3Dモデルを使って客先でプレゼンし、ときに操作してもらいながら顧客の要望やイメージを可視化したりクロージングできるようになったりしたらどうか。施工者への施工指示や現場作業者への作業指示に3Dモデルが使えたらどうなるか。そして日本創発グループ全体で、今は数名のユーザーにとどまるSketchUpでのコミュニケーションが当たり前になったらどんな相乗効果が生まれるだろう。
3Dユーザー、SketchUpユーザーが増えたら(先行者の)優位性がなくなってしまうではないか、ライバルが増えたら困ると考える人もいるかもしれない。しかし「3Dが便利だとみんなが気づけばおのずと増えていくし、すでに普及フェーズにある3Dを押しとどめるのは不可能です。表現手段が変わっても“ネタ”の重要性だけはずっと変わらない。アイデアは誰かが考えなければならないのですから」。
今回の取材をきっかけにグループ内でのSketchUpユーザー拡大にも期待したいという草彅氏。「3Dの民主化によってみんなが(3Dに)触れる未来になってほしい」という願いは届くだろうか。

野口氏のSketchUp作業画面。ウェビナーで知ったプラグインソフトなどSketchUpの操作探訪は欠かさない。


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