SketchUp活用事例 小野建設株式会社
発想を妨げない操作、充実のプラグイン活用で 施工マネジメントに3Dモデルを活かす

小野建設
社名:小野建設株式会社
URL:http://www.ono-ken.co.jp/
本社:静岡県三島市谷田60番地の3
創業:1920(大正9)年
代表取締役社長:小野徹
事業内容:総合建設業、生コンクリート製造販売業、宅地建物取引業、造園工事業、土木建築工事の設計および監理


「こうしたい」を支援する操作性にぞっこん

中村進氏お気に入りのSketchUp Proの機能は2つある。ひとつは操作性、もうひとつは豊富なプラグインの存在だ。「モデル上にマウスを置くだけで、端点や方向などを指示してくれる。そのまますっと滑らせばマウスの誘導のままに直角方向に線を引けたり、平行線が描ける。操作者の『こうしたい』イメージをかきたててくれるのがすごい!」
中村氏がべた褒めするのはSketchUp Proの推定機能のこと。端点や中点、交点などにスナップしたり、エッジに並行・垂直など、モデル上にヒントが表示される機能だ。コマンドを重ねて作図を進めていく一般的なCADと比べ、必要最低限に絞り込まれたコマンド類。ユーザーの創作意欲を損なわない洗練された操作体系。「描くのが本当に簡単なんですよ、SketchUp Pro最大のとっつきやすさはそこ。感覚的に描けて難しいことが何もない」

SketchUp Proの推定機能


操作者の創作意欲を妨げない操作体系を実現する一方、土木や建設、機械設計向けの専門的な機能をSketchUp Proに追加できるプラグインが充実しているのも合理的だ。サードパーティのソフトウェアメーカーが開発/販売するプラグイン製品、SketchUp Proユーザー自らが開発し、無償/有償で公開するプラグインも豊富だ。操作方法は誰もが扱えるよう直感的でシンプルに、業務で本格的に使うなら専門に特化したプラグインを活用する――。土木施工業のICT推進者としてさまざまなツールを見聞きし、使ってきた中村氏のポリシーだ。

入社以来、一貫して土木施工でのICT利用を追求してきたという中村進氏。
最近では、母校の金沢工業大学が主催するK.I.T.空間情報セミナーに入会して
GIS利用の最新動向を探るなど、好奇心はなお盛んだ

※ICT=Information and Communication Technology(情報通信技術)
※GIS=Geographic Information System(地理情報システム)

上辺ではだめだ、真正面からICT土木に取り組め

静岡県三島市に本社がある小野建設は、土木、建築、住宅を手掛ける総合建設会社。同社の土木事業を統括するのが取締役土木部長の中村氏だ。同社のICTを強力に推し進める牽引者でもある。
公共事業が売上げの中心の土木部にとって、国土交通省が進めるi-Constructionへの対応は急務である。さらに同省が2025年に全直轄事業で適用する原則BIM/CIM化も迫る。
「i-Construction開始当初、当社のような中堅企業が自力で3D CADやマシンコントーラーにいきなり対応できるわけはありませんから、データ作成からすべて外注する建設業者が多数でした。しかし、当社もそれにならっていたら後で必ずしっぺ返しを食う、だから努力してなんとしてでも自社でやれるようにしなければならない」と説いた。機械や機材は借りても、人材や能力を自社で育成・保有しなければ先はない。
会社が早くからICTの重要性を認識し、整備を進めていたことも幸いした。オフコンはもとより社員に対しても個人用パソコンを支給。これがきっかけでフリーソフトのCAD利用が一気に広まり、以来、2D汎用CAD、土木専用CADと変遷し、経験と能力を蓄積してきた。この記事の取材時は3件のICT活用工事に着工中で、ドローンや3Dスキャナによる3次元測量、マシンコントロールによる施工もソツなくこなしている。

3Dモデルを用いた施工マネジメントで成果を出す

同社でのSketchUp導入はi-Construction対応以前。社員の一人が国土交通省中部地方整備局で「ある3Dツールを使うと鉄筋の納まりがわかるそうだ」という話を聞きつけ、興味をもったのがきっかけだ。その3Dツールとは、当時、無償で公開されていたGoogle SketchUpだった。物は試しと施工を担当した伊豆縦貫自動車道ジャンクションを丸ごと一人でモデリング。マニュアルもない手探りでの制作だったが、モデリングのコツ、土木施工での3Dの有用性に開眼。何よりもSketchUpの魅力にすっかりとりつかれてしまった。
2012(平成24)年から2018(平成30)年までに施工した伊豆縦貫自動車道の構造物工事では、走行レーン斜面のコンクリート部分をモデリング、足場やレッカーを配置して安全施工・管理を検討した。この取り組みは平成25(2013)年度の第30回静岡県建設業協会賞で土木部門最優秀賞を受賞。静岡県土木施工管理技士会に投稿した工事論文は静岡県交通基盤部等優良建設工事表彰の部長表彰を受けた。3Dモデルを安全管理に利用した事例は珍しかっただけに、同社の取り組みは注目され、自社技術力のアピールにもつながった。

各賞を受賞した「平成22年度(国)136号函南三島バイパス社会資本整備総合交付金(国道道路改築(2次))
工事(南側取合擁壁工東工区)』の3Dモデル。
「3D CADを施工計画の作成、安全管理等の施工マネジメントや広報活動に積極的かつ効果的に活用した
先駆的な取組であり、今後、さまざまな工事への同様の活用が期待される」と高い評価を受けた


最近のトピックは「湯河原町真鶴町衛生組合一般廃棄物最終処分場」建設工事での3Dモデル活用だ。既存処分場の容量かさ上げのため地質調査したところ、環境基準を超えるカドミウムが検出されて操業停止。同じ場所に新処分場を建設することになった経緯がある。
埋立容量77,350m3もの大規模な施設では、廃棄物に含まれる有害物質や重金属が溶け出さないような構造や工夫が要求された。縦100m、横60m、内空高さ15mを大型屋根で覆う、この規模の施設としては異例のクローズ型だ。
中村氏は巨大な処分場をSketchUp Proでモデリング。コンクリートのブロック割は全部で数百にも及ぶ膨大なものだ。モデリングした構造物に対して工事計画を作成し、「型枠にはドイツ製のPERIという製品、足場は今どきの体格の現場作業員を想定して階高1,900mmのIqシステムという足場の採用を提案。3Dの作業員モデルを添えてヘルメットが足場に当たらないことを証明した」。これらが認められて業務受注につながった。

「湯河原町真鶴町衛生組合一般廃棄物最終処分場」(施工:竹中土木)の3Dモデル。
2019年3月に竣工したこの最終処分場に要した総コンクリート量約25,000m3、鉄筋約2,400t。
高さ約17~18mの擁壁で囲まれている。写真の模型は中村氏作

プラグインで広がる3Dモデルの用途と可能性

SketchUp Proには本体機能を拡張するプラグイン機能があり、さまざまなプラグインソフトが多数公開されている。その理由はAPI(application programming interface)やSDK(ソフトウェア開発キット)が公開されていること、汎用プログラミング言語Rubyでも開発できることだ。プラグインを利用することで、画面操作では作成が難しい複雑な形状を作ったり、数値入力でモデルを自動生成することなども可能になる。
中村氏が注目しているプラグインは「Inventory3D for Excel」(以下、Inventory3D)と「Kubity」だ。
Inventory3DはSketchUp Proで作成した3Dオブジェクト(コンポーネント)にExcelで作成したレコード(1行分のデータ)を紐づけできるユニークなプラグイン。レコードは複数かつ任意の項目を作成できるため、ユーザーの目的に沿った情報管理が可能だ。Excelデータと3Dオブジェクトを連携させると、オブジェクトの「レイヤ情報」「座標値」「体積」を取得してExcelのレコードに反映される。Inventory3D画面で任意のレコードをクリックすると該当する3Dオブジェクトがハイライト表示したり、逆に3DオブジェクトをクリックするとInventory3D上のレコードが選択される。データ連携のベースが使い慣れたExcelなので、マクロやVBAなどが使えると応用範囲はさらに広がるだろう。


中村氏はこのInventory3Dをコンクリートの品質管理に利用。具体的には、治山の谷止工事でコンクリートを打設する施工順に3Dオブジェクトを作成し、それらに名前/スランプ長/空気量/打設日/打設気温/メーカーなどの項目をレコードと紐づけて、品質管理を視覚的に行えるようにしている。

現在はさらに一歩進めて、Inventory3Dと連携しているExcelシートから打設日情報を抜き出し、
自作のExcelの工程管理表でガントチャートを自動生成させるような活用を模索中だ。
類似システムはほかのCADにもあるが、Excelでデータ管理できるのがミソで、
マクロなどを駆使すれば多種多様な文書との連動が可能になる。VBAプログラミングは中村氏お手の物だ


一方、KubityはSketchUp Proで作成した3Dモデルをスマートフォンやタブレット、パソコンで共有して閲覧できるプラグインとビューアだ。3Dモデルは特定のサーバにアップして、QRコードや共有コードを相手に伝えるだけ。パソコンならWebブラウザで閲覧できるので、特別な環境や設備がなくても遠隔地間で手軽にコミュニケーションできる。出色なのはリアルな現実風景と3Dモデルを融合できるAR(拡張現実)表示機能だ。建設現場に持ち出したスマートフォンで現況と3Dモデルを1:1スケールで重ね合わせ、スマートフォンを持ち歩けば完成前の構造物を疑似体験できる。地盤高さと座標を合わせるだけの簡単な設定でAR表示できるとあって、すでに現場投入済み。発注者や現場作業者への説明では、構造物のスケールを実感できると好評だ。

iPadにインストールしたKubityのビューアアプリで3Dモデルを操作する。またタブレットの画像をインターネット経由でブラウザに表示、遠隔操作しながら互いに気になる箇所をレビューできる


SketchUp Proの開発本国である米国ユーザーは建築分野での利用が圧倒的とか。一方、日本では土木ユーザーの支持も厚いという。2025年の原則BIM/CIMも現実味を帯びてきた現在、土木施工分野での3Dへの注目度はいや増し、SketchUp Proへの関心も高まるだろう。中村氏は、日本の土木ユーザーの要望にこたえた建設業向けプラグインの充実が待ち遠しい。


SketchUp Pro コマーシャルライセンス
Inventory3D for Excel
Kubity Pro

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