SketchUp活用事例 株式会社オノコム
社屋建設で進む BIM 実践プロジェクトを サポートする SketchUp、VR、クラウド

オノコム
社名:株式会社オノコム
URL:http://www.onocom.co.jp/
本社:愛知県豊橋市鍵田町 36
創業:1934(昭和 9)年
代表取締役:小野達朗
事業内容:建築工事ならびに企画、設計、監理の請負。土地、建物の有効利用に関するコンサルタント


地場ゼネコンで進む 2 つのイノベーション

株式会社オノコムでは今、2 つのイノベーションが起きている。クラウド化と 3 次元化だ。
同社が米 Google 社のクラウドサービスを業務に取り入れ始めたのは 10 年ほど前。現在はGoogle Workspace を導入し、社内外のコミュニケーションや事務処理などをクラウドベースで行っている。地場ゼネコンの同社では、3 分の 2 以上の社員が常時、営業や施工で外出している。
かつては現場事務所などの出先と本社を VPN(仮想専用線)で接続していたが、現在は Google のサービスを利用し、施工管理、営業報告、業務管理、勤怠管理、休暇
届や稟議に至るまで、出社することなく遠隔地から行える。メールはもちろん、現場事務所や出張中の営業社員との打合せも Google Meet で行う。新型コロナウイルスの感染対策で、2020 年は多くの企業で在宅勤務、ビデオ会議が導入されたが、同社では感染流行以前からリモートワークが当たり前だったのである。

左から VDC 推進室 3D モデラーの竹田里香氏、VDC 推進室 VDC マネージャー兼設計の林和弘氏、執行役
員 CDO の杉浦裕介氏。ONOCOM Philippines 社の那須貴寛氏は Google Meet で取材に応じてもらった


クラウドサービスへの移行を強力に推進したのは同社の小野達朗社長だ。大学院を卒業後、イギリスの AA スクールに留学、起業していた小野社長が、帰国して、2010 年に社長に就任。帰国して知った日本の建設業の IT 化事情については思うところがあったらしい。
当時、SIer として他社でシステム開発・構築に従事していた杉浦裕介氏(現執行役員 CDO)は、「発生した案件が集計されて手元に届くまで 1、2 週間かかる状況に『とにかく情報が遅い、Google の各種サービスを使えないか』と。私は異業種出身でしたし、社長にも『好きにやってほしい』と言われていたので、SIer の流儀で基盤を構築させてもらいました」と振り返る。

SketchUp が引き起こした設計・施工の 3 次元化

もうひとつのイノベーション、設計・施工業務の 3 次元化は、同社の設計部門であるデザインセンターの若手社員らから自然発生的に始まった。デザインセンターを経て、関連会社の ONOCOM Philippines 社に出向しマネージャーを務める那須貴寛氏は、学生時代から親しんでいた SketchUp をオノコム就職後も個人的に利用していた。5 年ほど遅れて入社した林和弘氏もまた私的に SketchUp を使っていたのだが、活用場面がユニークだった。現在は VDC 推進室 VDC マネージャー兼設計の林氏は入社当初、現場監督を担当していた。とある店舗改装の現場は、営業しながらフロント側(店舗入り口)を施工するというもの。
「店員や客の動線も考えなくてはいけない難度の高い工事で、店長に工事概要を図面で説明しても全然ピンとこない様子。そこで SketchUp が使えると思い立って 3D の施工モデルに足場を作り、作業者やガードマンも立たせて店長とのミーティングに臨んだ」ところ、あっけないほど簡単に理解を得られたのだという。
「現場監督で SketchUp を使っている若手社員がいると聞いて面白いなと思っていた」と那須氏が述懐するように、SketchUp は設計者を中心に話題と関心を集め、じわじわ広がっていった。営業段階の提案用パース、基本設計段階の施主へのプレゼンテーションや検討用、実施設計段階の納まり検討用と 3D モデルの活用範囲が広がり、「それらの制作もデザインセンターが担当していたので業務負担がすさまじかった」(林氏)ことの対策が講じられた。
2017 年、SketchUp と BIM ツールによる 3D モデリング専門のチームとしてフィリピンにデータセンターを設立。日本からの要望に応じて 3D モデルを制作する分業態勢が整えられ、その後、設けられた VDC (Virtual design & construction)推進室が本社とデータセンターのブリッジ役を担う。

データセンターで制作した SketchUp によるパース。現地採用のスタッフは建築系学部を卒業し SketchUp
などの 3D ツール操作に長けた精鋭ぞろいだ

「全社で進めていこう!」で始まった BIM への取り組み

Virtual design & construction の略だという VDC 推進室の設立も小野社長の肝いりだ。
社長の「BIM(building information modeling)を進めていこう」との号令をきっかけに1 年間の議論の末、社内全体を BIM 化へ導く専門部署として 2020 年 6 月にできた。「やる気があって 3D ツールのスキルもある人を」と人選も社長がした。
同社が描く建築設計・施工業務の BIM 化のアウトラインを林氏が語る。「設計から施工まで一貫した 3D データを維持・構築することを目標に BIM を進めていま
す。可視化ツールとして SketchUp は抜群ですが、初期段階から一貫した BIM モデルを作らないと情報ロスが起きてしまう。そのためプロジェクトがスタートして基本設計まで進んだ時点で BIM モデルから SketchUp モデルに変換しプレゼンに利用します。さらに実施設計を経て施工に引き継ぐ際にも、SketchUp に出力して施工関係者全員で 3D モデルを見ながら建物や施工情報を確認。ときに SketchUp から VR(仮想現実)を利用し実際に 3Dモデルの中に没入して細かい点をチェックし、施工側から見た問題点、デザイン的な課題などのすり合わせも行います。現場が始まれば、施主との定例会議でその時点の SketchUp モデルと VR で色味や質感などの合意形成を図っています」林氏がいう情報ロスとは、「設計が進んで設計図から施工図へ移行する当たり、従来のやり方では基本設計図は引き継がれず、施工図をゼロから描き直して」いたということ。それを今、「BIM で描いた基本設計にそのまま描き足していって施工の BIM モデルにするという試み」に取り組んでいるわけだ。

本格的な BIM プロジェクト第 1 号として現在建設が進むミナト設備工業の本社社屋工事(写真は Web カメラの映像)。下の 3D モデルは 2 階までのコンクリートが打ち終わった状態の躯体モデル

VR のスケール感は何物にも代えがたい

うわっ――。思わず声が漏れるほどの圧倒的な没入感。VR ゴーグル装着者の全方位を仮想現実が包み込む。雨上がり直後か、視界は雨で洗い清められたかのようにクリアだ。敷地駐車場のアスファルト表面を覆う水たまりが風に波立ち、建物の壁面を映し返す。

ミナト設備工業社屋の初期デザインを検討した VR 映像。雨上がりの風景に建つ社屋がビビッドに映える。
渓谷をモチーフに建物を設計したのは那須氏。
複雑な形状の設計と施工には SketchUp などの 3D ツール抜きでは難しかったと語る


ミナト設備工業社屋の初期デザインを検討したエントランスの動画


この建物は愛知県豊橋市で現在建設中のミナト設備工業の本社社屋。オノコムの関連企業であり、同社が設計施工を担当していることから、この社屋建設で本格的な BIM に取り組んでいるのだ。
同社が 2018 年に導入し、この VR を作成したソフトウェアがレンダリングソフトのTwinmotion だ。Twinmotion では CAD やモデリングソフトで作成したモデルデータを読み込んで、高品質のレンダリング画像や映像、パノラマ、VR を素早く簡単に作成できる。
建築や土木、都市計画、造園向けに特化したマテリアルやアセットを豊富に備えるほか、モデルの大きさや向きの変更に即座に追随するリアルタイムレンダリング機能が特徴だ。光源設定は「光をポンポンと置いていくイメージです。丸い電球光なら球状の光、ライン照明なら直線形状の光を選択して画面内にドロップするだけでいいんです」と那須氏。「今のところ業務時間とコストパフォーマンスを考えると Twinmotion が最良かな」と語る林氏に、3D モデラーとして SketchUp によるモデリングと Twinmotion でのレンダリング業務を担当する竹田里香氏もうなづく。


Twinmotion の照明マテリアル操作画面。画面左のライブラリからライトのオブジェクトをドラッグアン
ドドロップで配置。下部でオブジェクトの光源設定をスライダーや数値で設定できる


照明マテリアルの光源設定動画


Twinmotion のフェーズ機能で社屋の建築過程を表現した動画(上)。フェーズ機能は建物がつくられてい
く過程をアニメーションで表現できる


この VR は初期のデザイン検討用として作られたが、施工現場でも VR は活用されている。
現場事務所で現場監督と工事監理者が VR を参考に納まりを検討したり確認する光景は日常茶飯事だ。庇の長さをめぐり、3m は必要だと主張する施主と長すぎると指摘する現場サイドの相違があった物件で、施主に VR ゴーグルを着けて歩いてもらったところ、「こんなに庇が出るのか…。もう少し短くしようか」と施主。「このスケール感は図面やパースで伝えきれるものではない」と評価され、これを機に導入が一気に進んだのだとか。


現場事務所での VR 利用の模様。鉄骨工事会社との打合せでも利用し、「ベテランの鉄骨屋さん
も『これはわかりやすいなあ』と自然に打ち合わせていました」


オノコム本社 7 階フロアの一角に設けられた VR コーナー。ここで VR ゴーグルを装着し、VR 映像を体験
できるほか、壁面の液晶モニタで装着者が見ている映像を確認可能だ


同社では今後、SketchUp を現場監督にまで広めるつもりだ。施工情報の流通や効率化にはBIM ツールを中心に据え、視覚的な合意形成は SketchUp や VR が担う。サッシや細かい納まりの打合せにも SketchUp による 3D モデルは抜群に有効だとわかったからだ。
「スケッチ感覚で使ってもらいたい。現に先日も監督が触ってみたところ『こんなに簡単だったんだ!』と。SketchUp はみんなが垣根なく使えるソフトなので、もっと社内に広めていかないといけないと林とも話している」と那須氏は意欲を燃やす。
「BIM を実践して、各ツールの負荷工数がどれくらいになるのか、ボトルネックは何かなどを洗い出しています。できるか否かといえば可能なのでしょうが、現実的な納期を設定した場合に実現できるのか、その見極めをしたい」(杉浦氏)というこの BIM 実践プロジェクトで、同社が手にする成果はとてつもなく大きいはずだ。

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