スイーツ店舗設計者が3Dモデルで実現したオーナーの夢に応える店づくり
社名:株式会社SIENA
URL:https://www.siena-net.com/
本社:東京都新宿区東榎町4番地 2F
創業:2006(平成18)年
代表取締役社長:島晃司
事業内容:建築工事、設備請負、企画、コンサルタント、設計、施工、保守、建築・店舗デザイン・企画・設計・施工・全般プロデュース
「教えたくない」くらいSketchUpはすごい
「教えたくないな、SketchUpをみんなが使い出したらうちの強みがなくなっちゃうから」
紋切型の「便利です」より逆説の「教えたくない」が雄弁だ。SketchUpを販売する弊社にとってこれほどの賛辞はない。
SIENA(シエナ)は東京を拠点にパティスリーやベーカリー、レストランなどの店舗設計・施工をワンストップで手がける会社だ。小規模ながら、菓子・パン・カフェ業界向け専門誌「カフェスイーツ」(柴田書店)の独立開業特集などで繰り返し取り上げられ、JR東日本の電子マネーSuicaのCMに登場したパティスリーRyoura(リョウラ)をはじめ、数坪の路地裏の小店舗から都心のカフェ付きパティスリーまで100件超の実績がある。設計・施工の依頼は口コミ中心、営業はしたことがないという。
代表の島晃司氏のキャリアは異色だ。大手電機メーカーの関連会社で人工衛星の設計にかかわった後、大工に転身。6年間の現場仕事を経て店舗設計に飛び込んだ。設備配管から厨房動線、什器の製作まで、自ら全業種に指示を出す現場把握はこの経歴ゆえだ。

SIENA代表の島晃司氏。社名はイタリアの世界遺産の街・シエナに由来する。
取材は奥様が経営する神楽坂のダイニングバーFAROの一角で行われた
「パティスリーに入店した客はまず焼き菓子を目にし、奥へ進むにつれてショーケースのケーキにたどり着く導線が基本」という具合に、店舗設計には業種ごとのセオリーがある。同様に、電気や給排水、空調などの設備にもセオリーはあるというのが島氏のスタンスだ。店舗オーナーへの「お店は一生に一度の買い物かもしれないので、(そうした設備も)ちゃんとやったほうがいいですよ」というアドバイスは、島氏の信念でもある。
同社は現在、SketchUpとLayOutを店舗設計の核に据えたワークフローを築いている最中だという。LayOutはSketchUpに付属する図面作成ソフトで、3Dモデルと常にリンクしているため、モデルを修正すれば図面全体に反映される。同社ではSketchUpで作った3Dモデルをマスターデータとして施工図や設備図、配管図、CGまで展開していく方針だ。
SketchUpモデルを設計・施工の中心に据えたワークフロー
店舗設計・施工での同社の仕事の流れを聞くと、「3Dで確認してから2Dで清書する」というのとは根本的に違うことがわかってくる。同社の場合は3Dモデルが起点であり終点でもあるのだ。
現場の寸法をおさえたらすぐにSketchUpで内装のない空の空間を立ち上げる。そこに厨房機器のコンポーネントを配置し、家具を並べ、配管をはわせ、照明を仕込んでいく。「20坪ぐらいの店なら3日でデザインを完成させて、1週間で図面まで仕上げる」というスピードは、あらかじめ自作・収集したコンポーネントライブラリがあってこそだ。

厨房機器はコンポーネントを配置して位置を調整するだけ。「CADと比べたら何十倍も早い」と島氏は言う。
厨房機器のモデルは市販品や輸入品の形状を参考に、寸法さえ合えば自作する。
継手やバルブなどの配管部材も同様だ
テナント物件の場合、ビル全体を線画のホワイトモデルで表現し、出店する階だけに店舗の3Dモデルを組み込んで見せる手法を使う。建物の外観は最小限にとどめながら、屋上へ抜けるダクトや排気システムまで忠実にモデリングすることで、店舗と建物の位置関係、設備の取り回しが一目で把握できる。店舗オーナーへのプレゼンにも、施工業者への説明にも、同じモデルが機能する。

DWGデータで支給してもらった立面図を組み上げて建物を表現し、店舗はテクスチャ入りの3Dモデルをはめ込んでいる。
余分な情報をそぎ落とすことで視線が店舗に集まり、しかもダクトや排気ルートなど建物との関係も把握できる
島氏が力を入れている一つが、設備・配管の3D図面化だ。給排水の配管ルートをSketchUpで描き、壁や天井への定着位置、コーナー部分の取り回しまでモデルに落とし込む。それをLayOutで業種別に切り出し、例えば水道業者向けの配管図として出力するというわけだ。「材料を拾うのがすごく楽になった」という職人の反応は、この図面の高い実用性の証明だろう。配管の曲がり部分には90度エルボを使わず、すべて45度の曲がり継手か大曲がりで処理する島氏の設計ポリシーも明確だ。継手の個数も角度の指定も3Dの図面を見れば一目でわかる。

配管の曲がり部分を45度の曲がり継手か大曲がりで処理するのは、以前、他社施工の店舗でトイレ配管の
90度エルボが詰まりの原因になっているのを目の当たりにして以来の徹底方針だという
次の図はテナントビルの地下で営業する鉄板焼きレストランの案件だ。夜の営業を想定した雰囲気を見せたい意図からTwinmotionでレンダリングした。間接照明の表現はTwinmotionがあってこそ成立する見せ方でもある。「半日苦労した」と島氏は言うが、完成したCGは竣工写真と見紛うほどのクオリティに仕上がった。以前にも別のソフトでレンダリングを試みたことはあるが、「えらい時間がかかるのでやめてしまった」そうだ。Twinmotionはリアルタイムで結果を確認しながらパラメーターを調整できるため、試行錯誤のコストが圧倒的に低い。

「我ながら(CGと竣工写真が)めちゃくちゃ一緒っぽくてすごいなあ」(と制作当時に思った)というのは
誇張のない正直な気持ちなのだろう。もっとも「ケーキ屋さんには夜バージョンがないから」、
この手間をかけることはめったにないのだそうだ
島氏はかつて、iPadのアプリProcreateでパースを描いて店舗オーナーに見せていたが、手描きパースでは伝えられる情報量に限りがあり、店舗オーナーが完成イメージを正確につかみきれないことも多かった。SketchUpを使うようになってからは、打ち合わせにノートパソコンを持参し、3Dモデルのシーンを切り替えながら空間を見せる。
「『これでいいです』『それでお願いします』みたいな即決」の流れになって、「一回も『ちょっと違う』と言われたことがない、たいてい一発で決まる」。店舗オーナー側から見ても、完成後の姿がリアルに確認できれば、判断に迷う理由がない。「こんな(店舗設計)業者は初めてだ」と驚かれることも珍しくないという。
ビル地下のカフェでは、出版社も経営する店舗オーナーの「自社の本を飾りたい」という要望を受けて本棚を造作した。アーチ状の天井と面取り鏡を組み合わせた空間デザインも含め、すべてSketchUpでモデリングして施工に臨んだ。焼き菓子台などの家具・什器も、3Dモデルから寸法を拾い出した製作図を大工に渡す。「誰が見てもすぐわかる、寸法が入っていれば」が島氏の基本姿勢だ。

店舗オーナーの「本を飾りたい」という一言が、空間デザインの核になった。島氏の「どんなイメージ、雰囲気か、写真も見せてもらったり、
見せたりする」ヒアリングはとてもシンプルだ。シャープにいくのか、ぬくもりを出すのか、木か石か、
その程度の方向感を確認したら、あとはSketchUpで形にして見せる
CADは使わない、図面はすべてLayOutで作る
島氏のSketchUp操作環境にも言及しておこう。主に使用しているモニタは、34インチの湾曲型ウルトラワイドディスプレイ(アスペクト比21:9)で、4K相当の解像度がある。横方向に緩やかに湾曲したパネルが視界を包み込む。購入直後は線が歪んで見え、「使えたものじゃない!」と後悔したそうだが、慣れると空間が浮き上がって見えてくる。このモニタでSketchUpを操作すると空間の中に入り込む没入感に浸れるという。
例えば飲食店の個室から厨房への下げ口をどこに設けるか。位置ひとつで、調理スタッフの動線の長さや作業効率が変わる。平面図で位置を検討するより、実寸の空間の中に立った感覚で「ここだ」と思った場所に下げ窓を配置したほうが、より利便性は高いだろう。

湾曲型ウルトラワイドディスプレイをメインモニタに据えた島氏のデスク周り
見逃せないのは動作環境とLayOutの表示品質の関係だ。LayOutにはビューポートの描画モードとして「ラスター」「ベクター」「ハイブリッド」の3種類がある。線をシャープに表示するベクターモードは、パソコンの性能が低いと処理が重くなり、低解像度のモニタでは線がギザギザに表示される。島氏自身、4K解像度のモニタに替えるまで悩まされ続けた。「4Kにしたら線がくっきり出て、すごく使えるじゃないかと思った」というのが、LayOutの本格運用に踏み切った直接のきっかけだ。
平面図を直したら立面図も直さなければならない。立面図を直したら断面図にも――。2D図面を複数枚管理していれば誰もが直面する手間だろう。SketchUpとLayOutはその問題を「最初から実寸の3Dモデルを作り、そこからいかようにも図面を切り出す」という発想で解いている。「このソフトはすごい、最強。開発した人は天才だと思う」。パソコンCADの黎明期からいろいろなCADを見てきた島氏の言葉だけに説得力がある。

LayOutでの図面化は、できることを確認しながらさらに研究を進めている最中だ。
上図では、3Dモデルに非表示の照明記号を仕込んでLayOut上で制御する方法を試みている。
YouTubeの動画から着想を得ながら独自の手法を積み上げていく、そのプロセス自体を島氏は楽しんでいるようだ
「20年はもつ店舗を作ってほしい」。フランス料理店の店舗オーナーの要望に、大工から店舗設計に転身したばかりの島氏は「よし、絶対(20年)もつように作ってやる」と腹をくくったのだという。同社の店舗オーナーたちは「ほとんどが個人で、人生を賭けて店を開く人たち」なのだ。飲食店の多くが数年で閉店する現実のなかで、その重さを受け止めて仕事をする姿勢は以来、ずっと変わらない。「部品がないからアフターケアができない、というのは許せない。そういう意気込みでやっています」。
2026年秋には同社の新しい拠点が都内にできる。都営荒川線・小台駅から徒歩数分のところに、著名パティシエたちのケーキや焼き菓子を集めたセレクトショップを併設したオープンオフィスを設ける予定だという。大型湾曲ディスプレイを並べた同社のワークスペースを見学でき、スイーツを食べながら開店の夢を語ったり、打ち合わせができたりするのも甘い体験ではなかろうか。

SketchUpに挫折した経験がある人は「プラグイン『Curic DIO 2』の導入を検討してみて」と島氏はアドバイスする。
コテのアイコンの「Trowelツール」で面を押し出すと自動的にグループ化されて独立するため、
建築やインテリアの設計者がはまりやすいモデリングの壁をスムーズに乗り越えられる
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