SketchUp社内標準化の先に見据える業務効率化とBIM/CIMスキルアップ

みらい建設工業
社名:みらい建設工業株式会社
URL:https://www.mirai-const.co.jp/
本社:東京都港区芝四丁目6番12号
創業:1974(昭和49)年
代表取締役社長:石橋宏樹
事業内容:海洋土木事業(浚渫、埋立、港湾施設、空港、臨港道路など)/陸上土木事業(高速道路、鉄道、トンネル、橋梁、宅地造成など)

 

仮設桟橋の出来形モデルの威容と圧倒的な情報量

港湾構造物に目を奪われる。圧倒的なスケール感と無骨なまでの機能美。印象的なのが、海底を突き抜けて伸びる杭の異様な長さだ。



SketchUpで制作した3次元モデルは、設計レイヤと出来形レイヤに分けて管理されている。
他のBIMソフトに比べ、現場で測定した誤差を即座にモデルに反映できる
SketchUpの柔軟性や操作性が際立つという


鋼管杭の一本一本、ブレス材の接合部、海底の様子までが緻密に再現された上図は、SketchUpで作られた「那覇港(新港ふ頭地区)臨港道路(若狭港町線)橋梁仮橋工事」の出来形モデル(実際の施工結果を3次元モデル化したもの)だ。

本工事は、那覇空港から市街地へ続く道路の拡幅に伴い、海上に橋脚を設置するための仮設桟橋を構築するというもの(2023年竣工)。施工に先立って、下部工の大半が水面下にあることから、地盤情報には点群(レーザー測量による3次元座標群)やボーリングデータを活用し、海底の現況や支持層までの深さを可視化。それらをもとに作成された(設計と現況データを重ねた)3次元モデルでは、鋼管杭の打設位置やブレス材に干渉する複数の岩の存在を事前に発見できたという。

鋼管杭は海底に広がる琉球石灰岩層の深部まで打設する必要があり、しかも、200t級のクレーンなどの重量級の建設機械が仮設桟橋上を行き来するため、構造にはきわめて高い支持力と安定性が求められた。一般に、鋼管杭を打設する際には、数cm程度の誤差が生じることが多い。特に水中施工では視認性が低く、作業精度が陸上に比べて制限されるため、誤差が構造物の接合部にズレを生じさせる要因となる。そのため、水中での溶接や穴開け作業によって、ブレス材や接合部の位置を調整する必要があるが、水中作業は潜水士による手作業で行われるため効率は陸上の6~7割程度にとどまり、安全上の課題も伴う。しかし、3次元モデルを事前に作成したことで、誤差に応じたブレス材の位置や溶接プレートの寸法を地上で調整することが可能となった。これにより、水中作業の負担を軽減しつつ、工程の短縮と安全性の向上に大きく寄与できたという。

新入社員研修で行われるSketchUp講習の教材はケーソン

仮設桟橋の施工を担当したのが、今回取材したみらい建設工業だ。同社は道路、造成、橋梁など幅広い分野を手がける総合建設会社であるが、建設業界に少し詳しい人なら港湾・海洋土木に強みをもつ「マリコン(マリン・コントラクター)」とピンとくるだろう。

技術本部技術部長の石原慎太郎氏は、技術検討全般を統括するベテラン技術者。設計、BIM/CIM対応、発注者との調整などを担うほか、同社での3次元モデルの利活用やSketchUp導入に大きく寄与した人物だ。

技術本部技術部長の石原慎太郎氏


同じ技術部に所属する立川有紀美氏とエンジニアリング部のトゥリン氏は、仮設桟橋のほか、今回紹介する多くの構造物や建設機械の3次元モデリングを担当している。立川氏はBIM/CIM業務のほか、「技術提案に使う3次元モデルの作成支援もたまにしています」というように、設計支援からデータ管理まで広く携わる。トゥリン氏はミャンマー出身の技術者で、「BIM/CIM活用工事での3次元モデル作成、実施計画書と報告書の作成」のほか「技術説明資料やシステム概要図の作成」なども行っているそうだ。


技術本部技術部の立川有紀美氏(上)と技術本部エンジニアリング部のトゥリン(Htoo Lynn)氏。
立川氏は事務職で採用された事務系社員としては業務の仕分けや事務処理を行いながら、
BIM/CIM業務の支援も行う。トゥリン氏はミャンマーの大学で土木工学を学んだ後同社に入社し、
取材時点で入社3年目になる


SketchUpが多くの社員に使われるようになった背景には、前身のGoogle SketchUp時代から注目して使い始め、BIM/CIMや3次元対応の一環として使用を勧めた石原氏らの尽力や熱意がある。加えて見逃せないのが、同社の新入社員研修の内容だ。

入社前の研修から始まり、新入社員、係員、主任、作業所長といった職位やキャリアの節目ごとに行われる階層別教育(社員研修)が充実している同社。そのうち、新入社員研修では毎年、20人前後の技術職社員を対象に、約3週間(20日間)のプログラムが実施されており、安全教育や現場実習、座学などに加え、CAD操作とSketchUp講習がカリキュラムに組み込まれている。

新入社員らには社内標準のCADとSketchUpがインストールされたノートパソコンが支給され、CAD製図とSketchUpによる3次元モデリングの基礎を学ぶ。階層別教育を担当している施工本部工事部部長の齋藤豪氏は、「両方を合わせて3日程度の講習なので基礎的な内容が中心ですが、今や3次元も現場活用では必須になってきています。早いうちから少しでも慣れてもらって、配属先や現場で実践的に活かせるよう教育を進めています」と目的を語る。

施工本部工事部部長の齋藤豪氏


CAD製図とSketchUpでの3次元モデリングが新入社員研修に組み込まれて6年以上になる


講習では立川氏とトゥリン氏のほか、SketchUp操作に熟練した社員が講師を務める。市販の書籍を教材に、業務でよく使われる機能を重点的に学んだ後は、ケーソンの図面をCADで書き、モデリングする流れだ。

講習で書かれたケーソンの図面(左)とケーソンの3次元モデル(右)


ケーソンは鉄筋コンクリート造の港湾構造物で、石原氏や立川氏によれば、「海洋港湾土木に携わる社員にとって今後長くかかわるうえ、縦・横・高さの線を引く練習に適していて、2次元から3次元への変換を体験する教材としても最適」なのだという。

高知港海岸の港湾工事で実際に製作されたケーソンの3次元モデル。
実務経験30年以上という石原氏も初めて目にするという異形のケーソンで、
設計・製作の難易度は高く、3次元モデルが大いに活用された

操作を気軽に教え合う関係があれば業務は絶対うまくいく

港湾土木分野では、国土交通省が推進する「i-Construction」と「インフラDX」の方針に基づき、BIM/CIMの原則適用は2023(令和5)年度から開始され、その後の要領類の整備を経て運用が進められている。受注者であるゼネコンは、これらの要領や「港湾事業におけるICT活用実施方針」に従い、各種データを整備・納品する必要がある。

納品対象は、起工測量や数量計算、出来形管理図、属性情報の付与、施工計画書・報告書の作成、LandXML形式による構造物データなど、多岐にわたる。単に3次元モデリングソフトを使うだけでは対応しきれず、測量・設計・施工・検査の各段階における専門知識と実務経験が必要になる。「BIM/CIMというと『3次元モデルを作ること』が核心のように語られがちですが、実際には業務全般への深い知識とスキルが不可欠で、作業量も相当なものになります」(石原氏)。



3次元モデルを利用して作成された4D工程表の例。
工程表をリンクさせることでアニメーションを用いた施工ステップを時系列で確認することができる。
開始日、終了日を設定すると次に施工されるモデルが半透明(緑色)で表示される。


一方で石原氏には、BIM/CIM対応とは別に、3次元モデルそのものを業務にもっと積極的に活用していきたい考えがある。たとえば、構造物どうしの取り合いが複雑で、図面では空間的な関係が把握しづらくても、3次元化すると「こんなふうにつながっていたのか!」と直感的に理解できることがある。「作業所長には『問題点が明らかになるから、自分で一度、モデリングしてみて』と勧めています」と言うように、3次元モデルで図面の誤りや施工の難所を発見できた事例は少なくない。作業所長自らが設計図面をもとに数日かけて3次元の設計モデルを制作する体験は、設計と施工のギャップを埋めたり、現場での段取りを整えたりするうえでとても大きな意味をもつのだろう。

立川氏やトゥリン氏らが現場事務所に出向いて、モニタの3次元モデルを見ながら作業所長らと打ち合わせをすることは珍しくない。
写真は、消波ブロックの据え付け方などを所長に教えてもらってモデリングしたものを現場作業者と共有し、
施工手順を検討しているところ


前述の新入社員研修を終えた社員たちは、ノートパソコンを携えて全国の事業所へと配属される。配属先で「Aさんがすごいモデルを作った」と話題になれば、SketchUpが自然と広まり、技術の波及効果が生まれる。たとえば施工計画書や技術提案書に添付する「ポンチ絵」(概略図)を3次元で描ければ、構造物の形状や施工内容を直感的に伝えることができ、理解や評価アップになるだろう。結果、発注者とのコミュニケーションや技術提案の質も高まるとなれば社内での活用推進にも弾みがつくはずだ。

全事業所を結ぶ社内イントラネット上では、建設機械や作業船などのSKPデータが共有されている。
管理者は特に決めず、モデリングした社員が自主的にアップロードするスタイルで運用されている。
登録数は数百点にのぼり、現在も更新中だ。図は関連会社の青木マリーン株式会社が保有する
空気圧送船Techno1で、特注で建造された作業船だけに利用機会も多いとか


BIM/CIMに対応するためのスキルアップは重要だが、石原氏がまず願うのは、研修で触ったSketchUpを配属後の現場や職場で、それぞれの業務内容や担当領域に応じて活用してもらうことだ。背景には、社内のコミュニケーションや業務の進め方に対する石原氏のポリシーがある。

「社員同士で『ここがわからないよ』『こうすればいいんじゃない?』と、構えずに話せるような関係性があったほうが、業務は絶対にうまくいくと思うんです」。SketchUpの操作方法に関するやり取りを通じてできた人間関係や活発なコミュニケーションの先に、社内全体の効率化やBIM/CIM対応がある――。そのためには「SketchUpを標準ツールとして根付かせたい」のが石原氏の理想だ。

理想の実現に向けて私たちアルファコックスも、現場の声に耳を傾けながら、少しでもお力添えできればと考えている。

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