ネット・ゼロ・エネルギー住宅を設計するためのヒント



2015年にアイオワ州の田舎にあるネットゼロエネルギー一戸建て住宅「Iowa Nest」について記事を書いたことがありました。Sterner Design社のCarl Sterner氏(現在はSol Design + Consulting社)が設計したこのプロジェクトは最適な形状にパッシブデザインとアクティブデザインの戦略を組み合わせることで、ネット・ゼロ・エネルギーを実現し、年間の光熱費がわずか24ドルという優れた結果を出しています。
多くのデザイナーが「絵に描いた餅」の状況下において、Sterner氏と彼のクライアント、彼の提案に対する竣工後のプロジェクトのパフォーマンスを厳密に追跡・比較しています。ここでは、設計上の重要なポイントと、入居後の評価から得られた5つの教訓をご紹介します。


プロジェクト概要

  • プロジェクトタイプ:ネット・ゼロ・エネルギー目標、一戸建て住宅
  • 場所:アメリカ、アイオワ州
  • 建物タイプ:一戸建て住宅
  • 床面積/占有率:2階建て、2400平方フィートの居住エリア(+条件適用外の倉庫とガレージ)
  • プロジェクトの段階・完成時期:2019年完成
  • パフォーマンスのベースライン:IECC 2012
  • 性能目標:ネット・ゼロ・エネルギー、最良な採光性

建て替え後の家。画像提供:Sterner Design


設計プロセス

ネット・ゼロ・エネルギーと最良な採光の目標を達成するために、いくつかの異なる設計案をテストしました。まず、SketchUpで6つの異なる形状の3Dモデルを作成して、それをSefairaで解析しました。これらのデザインにおいては主要な居住エリアで1年の60%の期間、少なくとも200ルクスの昼光量で過ごすことを目標としました。

SketchUpの3Dモデルを使ってSefaira Daylight Analysisプラグインで
解析した建物形状の反復研究。画像提供:Sterner Design


最終的には、幅の狭いプレートを利用・コンパクトな形状・背の高い窓・内部に “光井戸 “と呼ばれる吹き抜けを取り入れたデザインになりました。 理想的なコンセプトデザインが見つかった後は、冬は非常に寒く、夏は暑くて湿度が高いという混合気候の中で安定したパッシブな温度を維持するという課題に取り組みました。Sefairaを使って11種におよぶデザイン戦略が分析されました。その結果、断熱コンクリート型枠(ICF)を採用し、南向きの窓に小さな固定式張り出しと操作可能な遮光スクリーンを組み合わせることが決定されました。

SketchUpとSefairaを使ったデイライト解析。画像提供:Sterner Design


上記の設計上の決定事項に加えて、パッシブ戦略(自然換気、最適な建物構造、遮光装置)と効率的な機械システムを採用した結果、コードベースラインからエネルギー使用量を79%削減することができました。南向きの屋根に設置された太陽光発電パネルは、家族が利用するエネルギー需要を満たすように設計されており、このプロジェクトはネット・ゼロ・ステータスを達成しました。


従来の住宅デザインとIowa Nestデザインのエネルギー使用量の比較。
設計戦略の組み合わせにより、国際エネルギー保全コード2012年版ベースラインから
79%の削減を実現した。画像提供:Sterner Design


これらの設計戦略が時間の経過とともに機能に変化が生じるか、を検証するために居住者は家の3か所で温度と湿度を測定しました。さらにエネルギー使用量も回路ごとに計測しました。これらの測定によって特定の空間におけるエネルギー使用量を正確にマッピングすることが可能になりました。ここでは数値と設計プロセスから得られる5つの教訓をご紹介します。

1)形を変えても大丈夫

設計者は自身の設計アイデアを何度も繰り返し利用する傾向があると言われています。このプロジェクトは異なるいくつかの建築デザインでテストおよび分析を行い、その中から希望に近いデザインを選択することで価値の再確認ができました。

当初の提案では予算の倍の費用はかかることが判明しました。 Sterner Designでは構造を簡素化し、床面積を減らすことで建設コストを半分に削減し、予算内に収め、さらに冷暖房負荷を30%削減することができました。


設計案ごとに冷暖房負荷を比較。設計案BではEUIを30%削減できた。
画像提供:Sterner Design


Sterner氏は最終的な建築物の形に至るまでの道のりを振り返り「コンパクトな形と細長い形の比較で研究を行えば、より効率的に理想的な建築物を選定することができたはずだ」と提言しています。

このようなシンプルな白い箱モデルをSketchUpやSefairaで
素早くモデリングして分析することで、形状に基づいた効率的な建物の比較が可能になります。
画像提供:Sterner Design


教訓:複数のフォームを素早くモデル化して分析し、エネルギーとコストの節約の機会を見つける。

2)可能な限り、洗練されたシンプルなものにする

形状を変更して複雑化した結果、エネルギー使用量が10%減少しました


優れた建築と言われるものの特徴の一つは創造性と機能性が融合し、デザインの洗練を疑う余地のない建築物を生み出すことです。デザインをシンプルにすることは、単に洗練された建築を実現するばかりでなく、エネルギー使用量を削減することにもつながります。
Sterner Designはクライアントの要求する空間を実現しながらも、当初の提案である接合部やコーナー、接続部の数を減らすことでエネルギー使用量を10%も削減することに成功しました。Sterner氏は「今回の経験で、デザインと性能がいかに密接に結びついているかがわかりました。基本的な設計手法をいくつか見直すことで、よりエネルギー効率の高いデザインを実現し、資本コストも当初の設計に比べて50%削減することができました。ネットゼロやパッシブハウスの設計は設計の最後に簡単に付け加えることなどではできないので、設計のDNAに組み込まれていなければなりません。」選択されるべきデザインを早い段階で何度も分析することで、顧客との会話をより有意義なものにすることができました。確かなデータがあるからこそ、顧客は設計概要に沿った変更を承認し、資本コストと運用コストを削減する自信を持つことができたのです。

教訓:物事を(比較的)シンプルにすることには価値があります。デザインを結晶化させることで、優れた建築を実現し、建築性を高め、エネルギー使用量を削減することができます。

3)適切なアクティブHVACシステムの選択

適切なHVACシステム(暖房・換気および空調を調整することで快適さを追求するシステムのことを指す)を指定することで、パッシブな取り組みを向上させることができることはデザイナーなら誰もが知っています。スペースの節約や内部環境の改善につながるだけでなく、HVACシステムの選択によって、クライアントの資本コストやランニングコストを急増させることができるのです。
繰り返しになりますが、SefairaのHVAC分析を早い段階から頻繁に活用し、特定のサイトやプロジェクトで機能する可能性のあるシステムの組み合わせをテストすることはオーナーが数千ドルも費やすか、または節約するかの違いになります。
Iowa Nestでは、従来よりも安価な空調システムを導入しましたが、快適性と室内空気環境の向上を実現し、ネットゼロの達成に貢献しました。どのようにして?まず、エアコンを使わないことです。これはアイオワの複雑な気候では簡単なことではありません。

設計時のHVACシステムのコスト比較。真ん中のオプションが当初の提案で、
3番目のオプションが最終的なデザインを反映しています。
画像提供:Sterner Design


このプロジェクトでは、土留め、日除け、自然換気、内部負荷の最小化などのパッシブデザイン戦略が取り入れられています。これにより、設計者がエアコンを一切使用しないで済むほど冷房負荷が軽減されました。同様に、高い断熱性、優れた気密性、パッシブソーラー設計によ、暖房負荷を減らし、小型で安価な電気式輻射暖房システムを指定することができました。
電気式の輻射熱は効率が悪いためネットゼロ住宅には不向きですが、このケースでは負荷が非常に小さいため、エネルギーペナルティはわずかであり、太陽光パネルを追加することで十分に補うことができました。

教訓:HVACとエンベロープの戦略を組み合わせて考える。

4)詳細を描く

家の窓の断熱材の詳細な仕様書。
SketchUpでモデル化し、LayOutで包括的な図面セットを作成。
画像提供:Sterner Design


Sterner氏はSketchUpとLayOutを使って、気密性と安定した内部環境を実現するために、一般的に使用する詳細図面と特注項目の詳細を描き入れました。一般的な壁の詳細、特注の壁の接合部、窓、ドアなど、気密性と断熱性を確保するための手段を明確に指定しました。

住宅の気密層のハイライト(左)。家の断熱層が強調されている(右)。
画像提供:Sterner Design


その結果、年間の気温差が(華氏)70度であっても、隙間風のない気密性の高い室内であったために実内部の温度変化はほとんどありませんでした。

2021年2月の極寒期に暖房を使用しない状態での外気温(黒線)に対する
室内温度(青、ピンク、赤線)の比較データ。外気温の変化にもかかわらず、安定した快適な室内温度を
実現していることがわかります。画像提供:iowanest.com


教訓:優れた建築物と居住者の快適性を確保するために、細部や仕様にまでこだわる。

5)EUIを超えて:パッシブ・ストラテジー&メトリクス

EUIはベンチマークや設計の全体的な良さを把握するには最適ですが、設計の指標としては不十分であると思われます。特に気温の変化による快適性や高負荷の問題など潜在的な問題を隠してしまう可能性があるからです。設計を進めていくうちに、あるエンジニアが当初の案では予算が2倍になっても、冬は寝室が寒く、夏はオフィスが蒸し暑くなる可能性が高いと指摘しました。このような熱の偏りを解消するためには、より複雑で高価な大型の空調システムが必要になったかもしれません。
稼動温度を用いて気温の変化による快適性の解析を行うことで空調の必要性を排除し、より小型で安価な空調システムを指定することができると同時に、不快な部屋の存在を回避することができました。






妥当なEUIのベースラインが確立されたら、ピーク負荷、使用温度、熱的自立性(空間が受動的に快適性を維持する時間の割合)などの他の指標を評価することで、設計時により詳細で意味のある洞察を得ることができます。

パッシブデザイン戦略の力 – 最終的なプロジェクトコストでは、
オーナーのセルフビルドの時間を標準的な労働力で評価しても、従来の住宅よりも9%低い
コストとなりました。


温熱環境やエネルギーデータなど、プロジェクトの詳細情報は、同住宅のウェブサイト(www.iowanest.com)でご覧いただけます。

Carl Sternerについて

Carlは、Sol Design + Consultingのデザイン&サステナビリティ部門のディレクターです。パッシブハウス、LEEDプラチナ、Living Building Challenge認定デザインなど、サスティナブルプロジェクトのデザインと提供を監督しています。Carlはより人間らしく生活でき、公平で楽しい世界を実現するためにはデザインの力は重要であると信じています。

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