SketchUp活用事例 株式会社岡﨑組
「ひなたの極」第一号企業が挑む 生産性向上とアウトソーシング新事業



岡﨑組
社名:株式会社 岡﨑組
URL:https://okazakigumi-gr.jp/
本社:宮崎県宮崎市大字恒久1800-1
創業:1929(昭和4)年
代表取締役社長:岡﨑勝信
事業内容:建設業 一般土木工事、舗装工事、橋梁工事、下水道工事、その他工事/生コンクリート製造販売/コンクリート構造物点検・調査・診断


構造物の計画ずれはSketchUpで事前チェック

「私が入社した1999年当時、社内でのCAD普及はまだまだでした。私は昔からラクをしたい気持ちが強くて、図面も手書きよりパソコンで書いたほうがラクだろうと…。ラクをするためにCADを使う、ラクをしたら労働時間も短くて済みますし」
岡﨑組でのICTへの取り組み、手始めとなるCAD導入時期と動機への質問に、工事課課長の瀬戸山雄之氏はこう答える。
誤解を招きそうな発言だが、入社以来、「ラクをしたい」当人が率先して建設事業部全体にCADを広め、測量や施工の3D化を推進してきた張本人だと知れば、瀬戸山氏独特の照れ隠しであることがわかる。

建設事業部工事課課長の瀬戸山雄之氏


図は2019年に同社が受注した護岸工事の3Dモデル。
河川に沿って堤防を築き、平行して排水用の側溝を設ける工事だ。発注者支給の二十数枚の2D図面のうち、主に平面図と(河川の長さ方向に垂直に切断した断面を表す)横断図をSketchUpに読み込み、3D化している。モデリングに要した時間は1日、瀬戸山氏自身が手掛けた。

同社が施工担当中の「赤江南地区築堤工事」の3Dモデル全景。画面中央が堤防、向かって左が側溝


次の図は別アングルからのシーン。堤防と側溝をつなぐ斜面に見える帯状の物体がわかるだろうか。実はここに設計上の不整合が発生しているのだ。
土木の設計図面は複数の図面 から成り立つのが普通で、この工事では、平面図や横断図、縦断図といった基本的な図面の ほか、階段や側溝、集水桝などの構造物を表現した各種構造図、さらに詳細図などもある。 ある位置の堤防の高さはほかの図面でも当然同じはずだが、ときに食い違いが生じてしまうという。

堤防を⾧さ方向に見たところ。
堤防から延びて側溝を突き抜けるグレーの帯状のパネルが断面図と階段 工構造図との不整合である
(実際にはこのパネルは存在しない)


「もともと護岸の完成イメージとして作ったのですが、『ミスがあれば教えてほしい』との現場技術者の要望もあったので、3Dモデルで寸法が合わない箇所を指摘しました。横断図、構造図どちらのミスかはともかく、このような計画ずれが生じていました」(瀬戸山氏)
指摘をもとに排水計画を見直し、すりつけなど施工上の問題も確認したうえで発注者と協議し、図面を変更することになった。仮にこの計画ずれが現場で発覚していたら、工事も止まり、工事期間も延び、人件費や建設機器の使用料もかさむはずだ。3D化の最大の利点に挙げられる「完成イメージを共有できる」のはもちろん、工期や金銭といった実質的なメリットも得られるとあっては、ICTや3D化が遅れているといわれる建設業でも3Dモデルを無視するわけにはいかないはずだ。

瀬戸山氏が戦力として期待するのが、企画課の福島加奈氏、建設事業部の佐藤百子氏だ。福島氏は(取材当時)入社4か月ながら、トレーニングもそこそこに子会社であるリフォーム会社の住宅水廻り設備のモデリングでSketchUpのOJT真っ最中。初の女性技術者として入社した佐藤氏は、3Dレーザースキャナ測量やドローン測量を中心に、現場のICT化、3D化に取り組んでいる。

左から管理部企画課の福島加奈氏、建設事業部の佐藤百子氏


ICT化で生産性を上げて社員にやさしい会社になる

1929(昭和4)年、初代が高知県から移住して起こした砂利採取業がルーツの同社。生コンの製造・販売業も展開し、宮崎県では老舗の建設業としてよく知られた存在だ。
2009年に岡﨑勝信氏が代表取締役に就任すると、同社は県内の働き方改革の旗手として注目を集めるようになる。
2018年には宮崎県の「ひなたの極(きわみ)」認証第一号を取得。この制度は、仕事と生活の調和の実現に向けた職場環境づくりを積極的に行っている企業や事業所のうち、特に優れた取組成果が認められる企業などを宮崎県知事が「働きやすい職場『ひなたの極』」として認証するもの。3Kイメージ「きつい、汚い、危険」が当たり前で、働きやすい職場とはおよそかけ離れていそうな「建設業者」が初めて取得したとあって、新聞やテレビなどの地元メディアで大いに話題になった。
有給休暇の取得率、年平均残業時間数、育児休暇取得率など多数の審査項目のうち、同社にとっての最難関は残業時間と育児休暇。繁忙期・閑散期があり、ときに突貫工事や災害復旧工事もある建設業で、この2つは会社の全面的な支援や社員の理解・協力なしにはとても実現できるものではない。
同社では、残業時間はBSC(バランス・スコア・カード)を活用し、管理部と他部署が共通認識をもつことで削減に成功。育児休暇に至ってはこの3年間で男性社員4人が取得するまでになった。

白を基調とした明るく清潔感のあるオフィス。きびきびと立ち働く女性社員も多く目につく。
「生産性を上げることが従業員にやさしい会社になる」が同社のモットーだ


建設業の話題といえば「i-Construction」は見逃せないトピックだ。i-Constructionは国土交通省が掲げる生産性革命プロジェクトの目玉のひとつで、そのうちの中心施策「ICTの全面的な活用(ICT土木)」を要約すると、

  • 調査・測量、設計、施工、検査等のあらゆる建設生産プロセスでICTを全面活用
  • 3次元データを活用するための新基準や積算基準を整備
  • 国の大規模土工は、発注者の指定でICTを活用。中小規模土工についても、受注者の希望でICT土工を実施可能
  • すべてのICT土工で、必要な費用の計上、工事成績評点で加点評価

となる。つまり、ICT技術や3Dデータを活用して建設業の生産性を向上させ、さらには建設業で働く人々の働き方改革を進めようということだ。
なるほど! 公共事業が売上げの大半を占める同社にとって、ひなたの極もi-Constructionも、最優先で取り組むべき課題だったわけだ。冒頭の瀬戸山氏の発言も、3D測量導入の経緯について「何かのタイミングで急にしたくなって、社長に『ドローンで写真解析したいのです』と直談判して始まりました」という煙に巻くような答えも、福島、佐藤両氏にハードル高めの課題を課す少々きつめの指導も、ねらいは「ICT化」や「生産性向上」であり、ひいては「社員の成長」や「女性の活躍」であったのかと合点がいく。

目標は施工検討のアウトソーシング事業化だ

建設業では現場での施工に先立って施工計画という文書を作成する。施工計画書類は、図面や仕様書などに定められた工事目的物を完成するために必要な手順や工法、施工中の管理などを定める書類だが、施工方法の説明では現場で使用するバックホーやダンプカーといった建設機械の写真やイラストを添えることが多い。資材や土砂などの搬出入ルートや配置、仮設計画にもイラストを配置して説明書を作る。

瀬戸山氏がSketchUpで作った建設機械の一部。
左がアスファルトフィニッシャー、右が地盤改良機のパワーブレンダー


こうした施工説明書では、写真やイラスト、文章を自由にレイアウトできる便利さからExcelが使われることが多く、図形はもとより、建機もExcelのオートシェイプ機能で描かれるのが一般的だ。
実際、瀬戸山氏自身もSketchUp導入前までは「建機のカタログをスキャンし、オートシェイプで作っていました。でもそれだと側面図なら側面でしか使えない、上面や前面の図が必要なら、都度、描かなければいけない。「それで頑張って習得しようとSketchUpを4年前から使い始めたのがきっかけ」だという。オートシェイプの建機もSketchUpデータの建機もインターネットで入手できるが、「舗装工事の建機ならある程度決まっているものの、同じ建機を使い回せる機会は案外少ないのです。たとえば地盤改良現場ではこんな特殊な機械をもって来たり」するのだそう。
コツコツ作りためた建機は100種類超。もはや趣味の域と言う瀬戸山氏だが、正確なサイズで作られた3Dの建機は、実は意外なところで効力を発揮するのである。

発注者との協議で使用した施工説明書


施工説明書に貼り込んだ現況と建機のイラストが正確なことから、計画どおり現場にダンプカーで資材や土砂を搬入出できるのか、重機を配置できるのかを、事前にシミュレーションできてしまうのだ。
図の例では4tダンプでは路肩から落ちてしまうことが事前の施工検討でわかり、キャリーで搬出するよう施工計画を変更した。

4tダンプで土砂を一気に搬出することで積算していたが、シミュレーションの結果、路肩から落ちてしまうことがわかった。結局、発注者との協議を経て小さなキャリーで運搬するよう施工計画を変更することになった


施工が始まれば4tダンプが現場に入らないことはいずれわかることだ。その結果、「1tクラスのキャリーダンプでちまちま運ぶとなれば、下請け業者は当然、相当の代金を当社に請求するわけです。しかし、当社は積算どおり4tダンプによる搬出入代金しか発注者からはいただけず、差額は当社が負うことになる」。
現場にもよるが、差額が数百万円単位にもなると聞けば、とても見過ごすわけはいかないだろう。
さらに一歩進めて、3D化による施工検討を自社内だけでなく、他社からも受注できないか構想中だという。いわば施工検討のアウトソーシング事業である。3D化を視覚化や効率化のメリットにとどまらず、収益化して目に見える成果を上げたい――。戦略をもってしたたかにビジョンを進める岡﨑組と瀬戸山氏の今後に注目だ。

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